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庭球ゲーム
駄菓子と恋心(真田)
真田く〜ん!と呼びかけられて薪割りをしていた手を止め、声のほうへと目をやると、視界におかっぱ頭をゆらして小走りでこちらへとやって来る山野辺の姿が映った

真田「どうした、山野辺」
山野辺「真田くんが薪割りしてるのが見えたから…なんかお手伝いすることあります?」

はぁはぁと息を切らしながらもうれしげにこちらを見つめてくる。そんなに急がずとも待っていてやったのに…と彼女のいじらしさが何だか微笑ましくなる

真田「そうか…なら、割った薪を拾ってもらってもいいだろうか」
山野辺「はい!」
真田「割っている薪にぶつからないように気をつけろ。それと、素手では木の破片が刺さるかもしれん、これを使え」

側にあった軍手を放ると山野辺がそれを上手く受け止めてから、ありがとう!と元気よく礼を述べる
軍手をつけて、彼女が落ちている木片を拾い始めたのを見守ってから、自分も再び薪を割り始める

真田「山野辺、そちらはどうだ」

最後の薪を割り終えて、タオルで汗を拭いながら山野辺へと声をかけるとあとそこのとこれだけです〜と腕一杯の薪を抱えながら返事を返してくる

真田「大丈夫か、そんなに抱えて」
山野辺「だいじょうぶ!あっ…!」

腕の中で抱えられた薪がぐらぐらと小さく揺れていたので、今にも崩れそうだと危なっかしく思っていたその矢先、前のめりになった山野辺の腕から抱えられた薪がばらばらと散らばり落ちる

山野辺「ご、ごめんなさいっ!すぐ拾うから…!」
真田「慌てなくていい、手伝ってやるから」

今にも泣き出しそうな顔で必死に薪を集める彼女の側にしゃがみ込むと、一緒に落ちた薪を拾う
落ちた薪の大半を自分が持つと、ついでに先ほど割った薪も拾い上げる。全ての薪を拾い終えて保管場所に運んでいると一緒に運んでいる山野辺がしょげた様子を見せた

山野辺「ごめんなさい…お手伝いするつもりが手伝ってもらっちゃって…」
真田「何を謝る。元々は俺が一人でやっていたことじゃないか、お前はそれを手伝ってくれたんだろう?」
山野辺「真田くんは優しいね」
真田「…」

事実をそのまま述べただけだが、図らずも褒められてしまい妙に照れ臭くなる。柔らかく微笑んで見つめてくる彼女を横目に、先ほどまでしょげていたかと思えば…本当に表情がころころとよく変わるなと興味深さを覚えた

山野辺「これで薪割りは終わりだよね、少し休憩しましょ?」
真田「ああ」

薪を運び終えると山野辺がそう提案してきたのでそれに応じて、二人で側に置かれた丸太に腰かける。自分のすぐ側に腰かけた彼女からふいに甘い香りが漂ってきた

真田「山野辺、何かお前から甘い香りがするんだが」

整髪料やデオドラントの香りというよりはもっと甘ったるい…菓子のような香りだと感じたので気になって山野辺に尋ねる
問いかけられて、きっとそれはこれです、と上着のポケットからチューインキャンディの包みを取り出す

山野辺「さっき食べようと思って、入れっぱなしにしてたの忘れてた。真田くん、おひとつ食べます?」
真田「あ、いや俺は…」

菓子の類いはあまり…そう言って断ろうとしたが、言いかけた瞬間、彼女の顔が曇ったので何だかいたたまれなくなって一つもらうことにした
嬉しそうに手渡す彼女から小さな包みを受け取ると銀紙を剥いて、菓子を口に放りこむと苺に似せた味のそれが口の中に広がる

山野辺「今度はお肉味のお菓子を持ってくるね。ストックにあったはずだから」
真田「別に気を使わんでいい、ここじゃ加工食品は特に貴重だからな。自分用に取っておけ」
山野辺「はい」
真田「その…気持ちは嬉しかった」

好みでない物を食べさせてしまったとでも思ったのだろうか、少しでも俺の好きな物を考慮しようとしているところにいじらしさを感じる
上級生にもくん呼びだったり敬語と敬語でない言葉が一緒くたであったり…それ以外でも山野辺と一緒にいるとどうもペースを乱されてばかりいるが、こういうところがあるから憎めない…いや憎からずおもうのだろう

真田「そろそろ戻るか。山野辺、手伝い助かったぞ…ありがとう」
山野辺「こちらこそ!また何かお手伝いすることあったら言ってください!」

立ち上がって別れを告げると山野辺がぶんぶんと腕を振って小走りで去ってゆく
口の中にはまだ先ほどの菓子の余韻が残っていて…甘ったるく後を引く、慣れない味覚。本来なら好まない味が心地良く感じるのは何故だろうかと思いながら、自分もまたその場を後にした

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あきゅろす。
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