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庭球ゲーム
上着と独占欲(幸村)
作業を終えて、水でも飲もうかと食堂へと向かうと辺りがざわざわと騒がしい
そこにはすでに何人かの人垣ができていて、また比嘉中の連中が他校とでももめているのだろうかと顔を覗かせると、その真ん中にいたのは羽海野さんと跡部だった
どうやら何か言い争っている様子だが、二人とも気は強いけれど無駄な争いは避けるタイプだから何かよほど腹に据えかねることでもあったのかと気になって、止めるに止めれないといった顔をした人たちの合間をぬって二人の間に割って入る

幸村「二人とも一体どうしたんだい?喧嘩なんて珍しいね」

幸村、と声を揃えて二人がこちらを振り向く

羽海野「聞いてよ幸村!跡部ったらひどいんだ、人のこと見苦しいとかみっともないとか言いやがってさ」
跡部「それはお前がンな格好してっからだろうが。なまっ細い腕をほいほい人前に晒すんじゃねぇ」
羽海野「なまっ細いって言うほど細くねぇよ。仕方ないだろ、暑いんだから…!桑原みたく頭剃り上げるワケにもいかないし、あと削れるとこっていったら服ぐらいじゃんか!」

その言葉を聞いて、改めて羽海野さんの格好を眺めてみる。長い髪をうなじの上らへんでくるくると一つにお団子にした頭、短めのショートパンツに…上はセパレートの水着みたいな形のかなり短いタンクトップ一枚。もちろん下着はつけているとは思うけど…なんと言うか、露出の高い格好だ
特に胸元とか気をつけないとうっかり目がそちらにいってしまいそうで…跡部はそのことを言いたかったんだろうなというのがしのばれた。ただ、彼はいつも通りの高飛車な口調で遠回しに言ったから彼女には悪口みたいにとれたのだろう
跡部の物言いも悪いけれども、彼女ももはや売り言葉に買い言葉になってるのか後に引けない感じで…だけど、このまま放置しておくわけにもいかないの助け舟を出すことにした

幸村「女の子に見苦しいとか…跡部は本当に口が悪いよね」
羽海野「だろ!」
跡部「幸村、テメ…」
幸村「だけど、羽海野さん…」

そっと顔を近づけて耳うちする

幸村「その格好はちょっと大胆すぎて俺らには目の毒かな。ほら、あそこにいる葵なんて顔真っ赤にしてどうしていいか分からないって顔してるだろ?」

人垣の一画にいる葵を目線で示して、苦笑いを浮かべる。葵の表情と自分の格好を見比べてう…と気まずそうにこぼす

幸村「まぁ、暑いのは辛いって気持ちはよく分かるんだけどね。もし男ばっかり不公平だ〜って言うなら俺もこのジャージ着て頑張るからさ」
羽海野「そ、そこまでは言わないよ。ごめん、しょうもないことでぐずって…」
幸村「謝ることないよ、暑いと誰だってイライラするし…跡部が言ったことがそれに拍車をかけたのも事実だからね。彼は女の子に対しての配慮が足りない」
跡部「オイ、聞こえてんぞ」

憎々しげに呟いてからチッ、と舌打ちをする

跡部「ソイツが女ってタマかよ。第一鈍いほうが悪ぃんだ…俺はもう行くぜ。こんな所でこれ以上油売ってるヒマはないんでな、っうことだから気をつけろよ、羽海野」

そう言い残すと邪魔だ、と人並みをどかしてその場を立ち去ってしまった。その背中を見送りながら、何だよあれ…と、羽海野さんがこぼす

幸村「あれはきっと跡部なりのテレ隠しなんだよ、彼は素直じゃないからね」
羽海野「そうなのかな…」

騒ぎが収まって、ばらけてゆく人垣を横目に納得いかなそうに羽海野さんが呟く
跡部は本当に素直じゃない…確かに彼女のこの格好は刺激が強いから少なくとも皆に影響が、というのもあるだろうが…本音はそんな姿の彼女を自分以外の男の目に晒したくない、というところだろう。子供じみた独占欲だ

幸村「で、これからどうするのかな?こんなことがあった後だとさすがにその格好で動けないだろう、とりあえず手元に上着とかないなら俺のこれ貸すけど」

羽織っているジャージを指差すと、じゃあ、着替えに戻るまで借りてもいいかなという彼女に上着を引き抜いて手渡す

羽海野「着替えたらすぐ返すから」
幸村「そんなに急がないでいいよ。あ…でももし、今すぐ着替えに戻るなら俺もついてくよ。返すとき借りたジャージ持ったまま、探し回るのも手間でしょ」
羽海野「幸村がいいなら、構わないけど…」
幸村「大丈夫だよ、着替えてる間はちゃんと小屋の外で待ってるから」
羽海野「そんな心配してないよ、幸村は覗きなんて絶対しないだろうし。けど…アンタは本当優しいよな。どっかの誰か様とは大違い」
幸村「フフ」

正直、そこで跡部を引き合いにに出されたのは癪だし、冷静な彼女をこうもムキにさせる跡部も面白くない
大体、跡部だって普段なら、いや…相手が彼女でなければ、あのぐらいのことにあんなにもこだわったりしないだろう。ささいなことを見過ごせず、ぶつかりあってしまうのは…お互いが気になって仕方ないからだ。だけど、それを俺は決して彼女には伝えない、だって…

幸村「俺が優しいとしたら、それは羽海野さんにだからだよ」
羽海野「またそういうことを」
幸村「ひどいな…本気なんだけど」

俺も彼女のことが気になっているから。さっき彼が感じた独占欲は俺も同じように感じたものだから
わざわざ、ライバルに進んでアドバンテージを渡すような真似、するわけない

羽海野「でも、ありがと」

俺のジャージを羽織って微笑む彼女を見て、少しだけさっき感じた嫉妬心が薄れる。彼女の感心が向けられている分、今は跡部のほうがリードしているけれど…必ず巻き返してみせるから
テニスも恋も負けられない、絶対に

幸村「どちらも随分と手強そうだけどね…」

幸村?と眼差しを向ける彼女に小さく微笑んだ

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あきゅろす。
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