庭球ゲーム
なくおとこ(丸井)
丸井「探索か、羽海野。どこ行くんでぃ?俺も着いてっていい?」
羽海野「別に食料を探しにいくわけじゃないけど」
丸井「分かってらい、そんなこと。羽海野も一応女子だからさ、一人で遠くまで行ったらキケンもあるかもしんねぇじゃん。やっぱ、着いてってやるよ」
有無を言わさずにご機嫌な様子で丸井がついて来る。見るからにチャラくてわりと軽い丸井は正直、今の私の一番苦手な奴だったりする。少し前に試しに作った料理をたまたまそこに居合わせた丸井に二、三回くれてやって以来、こんな感じでどこかに行くのに着いてきたりすぐ話しかけてきたりと何だか妙に懐いてくるようになってしまった。あとから人づてに聞いた話だと食べ物をくれる女子が好みのタイプらしく、自分が惚れられたとまでは言わないが正直やらかしたと思った。ていうか、食べ物さえくれればもしかしてクリーチャーみたいな奴でもいいのかと考えたら嫌悪を通りこして感心と畏怖すら覚える
丸井「あの雲、せんべいみたいじゃね?そういや、お前がこないだ作ってたえびせんみたいなやつ美味かった。また作ってよ」
羽海野「気が向いたらな」
丸井「ちぇ、ケチ」
唇をとがらして拗ねた顔をする。アイドル並みに可愛い丸井に懐かれるのは普通の女子なら悪い気はしないのだろうが、自分はどうも冷たくあしらってしまう。別に自分が苦手なタイプだからといって、特別何か丸井自身にひどいことをされたわけではないのだから勝手な話だと思うが
丸井「…なぁ、羽海野って俺に冷たくねぇ?俺、何かした?」
そんなことを考えていた矢先、見透かされたようなことを言われて返事に詰まってしまう
羽海野「別に」
丸井「んだよ、じゃあ仲良くしようぜぃ?俺、羽海野のこと結構気に入ってんだしさ」
羽海野「食べ物をくれるからか?」
丸井「あ、あ〜…ジャッカルに聞いたな、それ。あのブラジリアンハゲめ余計なことを…」
羽海野「でもほんとのことなんだろ?」
まぁ、それもあるけどさ…と歯切れ悪く呟いてバツの悪そうな顔をする
丸井「だけど、食いもんくれるから誰でもいいってワケじゃねぇよ。それにただの食いもんじゃなくて美味い食いもんくれる奴のほうがもっといいし」
羽海野「同じじゃん」
丸井「違う、全然違う!」
俺にとって天と地ぐらいの差があんでぃ!と拳を振り上げて力説する。やっぱり物につられてるのには変わらないと思うが。何だか無性にイライラする、恋愛でもそうじゃなくても誰でもいいみたいな軽いノリは苦手だ
丸井「で、今は一番美味いものくれるのは羽海野ってワケで…」
羽海野「あのさ、丸井」
足を止めて丸井の方を振り向くと、きょとんとした表情を浮かべる
羽海野「…やっぱ正直に言おうと思うんだけど」
丸井「何だよ」
羽海野「物くれるからってだけであたしにつきまとうならやめてくれないかな?そういう懐かれ方されてもあんま嬉しくない」
丸井「は?」
羽海野「ここにあんた達といるのもそう長い期間じゃないから我慢出来るかなって思ったけどやっぱ無理だわ。別に食べ物なら愛想ふんなくてもあげるからさ、できたらほっといてよ」
大きな目を見開いて、状況が飲み込めないといった顔で固まる。我ながら一方的なことを言ってるなぁとは思うが、曖昧に濁して分かって貰えないのは後あとこじらす元になるだろうし。けれど、普段ならいくら苦手にしたってこのぐらいのことがこんなに堪えられなくなるなんてことないのだけど、丸井にだけは何だか余計に辛く当たってしまう気がする
のは何故だろう
丸井「…」
羽海野「丸井?」
まぁ、いきなりだいぶ酷いことをまくし立てたので悪口ぐらいは甘んじて受けようと思って黙っていたが、丸井は黙ったまま下を俯いている。怒りにでも耐えているのかと思っていたら、突然丸井の目からぶわっと洪水のように涙が溢れ出した
羽海野「ま、丸井…?!」
女の子じゃあるまいし、まさかこれしきのことで泣くとは思っていなかったので心底びっくりしてどうしたもんかとおろおろしていると、丸井がしゃくりを上げはじめた
丸井「ど、して…んな、ヒデェこと…い、」
羽海野「ごごごごごめん…!!流石にちょっと言い過ぎたかも…!!!」
よく女の涙は卑怯だというが、美少年の涙も充分卑怯だ。不謹慎にも可愛いと思ってしまう泣き顔を無防備に晒されて、これじゃ、謝るしかできなくなる。しゃくりを上げながら、何とか言葉を繋ごうと丸井が口を開く
丸井「好き…な、やつ、から、もら….が、いい、じゃん…」
羽海野「え?」
好きな奴からもらうのがいいんじゃん…途切れ途切れの言葉を要約するとそう聞こえる
羽海野「それってどういう…」
丸井「俺、おま、え…だけ、好き、のに…側、くるな…て、いわれ、た…かなし、じゃ…ん?」
俺、お前だけが好きなのに側に来るななんて言われたら悲しいじゃん?…とんでもない聞き間違えてなければ確かにそう言ってるように聞こえて、一気に顔が赤くなる
羽海野「丸井って、あたしのこと好きだったの?食べ物をくれるからでなく」
丸井「そりゃ…きっか、けだ…の」
羽海野「そしたらあたし、とんでもない思い違いしてたわけ?丸井は食べ物さえくれる適当な奴なら誰でもいいのかと思ってた。だから…」
丸井「俺ぁ、んな…軽く、ね…」
泣きながらも睨みつけてくる丸井へと手を伸ばすとそっとその背を撫でる
軽いのは嫌いといいながら、好きと言われて状況も考えずにら嬉しいとすら感じでしまう自分も、人のことを責められた義理ではない
羽海野「ごめん…丸井、あたしが悪かった。勘違いしてひどいこと言って。何か、アンタに適当にあしらわれてるんだって思ったらなんか無性にイライラしてさ。今までこんなことなかったんだけど」
丸井「…」
羽海野「許してくれとは言わないからさ、泣きやんでよ。あたしに出来るお詫びならなんでもするから」
その背をぽんぽんとあやすように叩くとまん丸な瞳に涙を一杯に溜めた丸井がこちらを見上げてくる
丸井「…じゃあ、付き合って」
羽海野「はい?」
丸井「今、お前…自分に出来るお詫びならなんでもするったじゃん?付き合ってよ、俺と」
しゃくりあげるのをやめて、真っ直ぐにこちらを見つめてくる
丸井「軽いから嫌なんじゃなくて、俺に軽く扱われた感じがしたのが嫌だったんだろぃ?それってさ、俺のこと意識してるってことじゃねぇの」
羽海野「は、話が飛び過ぎてないか?」
丸井「ただ嫌われてんならどうしようもねぇけどよ、気になってっからっうなら話は別じゃん?」
なぁ?と顔を覗き混んでくる。もうすっかり涙の止まった顔を見て、こいつさっきの嘘泣きだったんじゃないのか?と思ってしまう。でも、不覚にも熱い頬を持て余しながらどうしたものかと思っていると、丸井の顔が離れる
丸井「甘いもん」
羽海野「へ?」
丸井「甘いもんな。お前、料理上手いじゃん?材料少ねぇけどなんとか工夫して作ってよ」
それでチャラにしてやらぁ、とにっと丸井が笑う
羽海野「からかったのか?」
丸井「やられっぱなしは性に合わねぇんだよぃ」
やっぱりこいつ軽いんじゃん…と怒るを通り越して呆れていると丸井がくるりとこちらを向く
丸井「付き合いてぇのはホントだけどさ、泣かせたお情けで付き合ってもらうとかカッコ悪ぃじゃん?ちゃんと、俺の魅力で付き合いたいと思わせてやんよ」
羽海野「丸井…」
びっ、と指をこちらに向けてウィンクをしてくる
丸井「好きだぜ、羽海野。ちゃんと俺のこと見てろよ、もっと惚れさせてやるから」
そういって不敵に微笑む顔を見て、もしかして結構厄介なのに捕まってしまったかもと早くも後悔の念にかられたのは言うまでもない
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あとがき
単にブンちゃんを泣かせたいだけの話。
美少年が泣いたり怯えたりする姿に異様にときめいてしまうのは自分の悪癖
ブン太はこんなに簡単に泣かない気しますが、逆に心を許してる人に対しては結構、喜怒哀楽も激しそうな感じもします
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