「総長君って‥‥」
俺には惚れている女がいる。そいつは俺を総長君と呼ぶ。ナンバーズのことは名前で呼ぶくせに、俺がいくら名前で呼べっつっても呼びやしねえ。ムカツク。
このあたり、やっぱり俺って普通の男って思い知らされるわけよ。
自分は特別だと思っていた。
そして、普通の人間だと思い知らされたあの日。
「俺らのところにつきな」
とどめをささないアイツ。
代わりにくれた言葉。
「アンタにならついていくぜ?」
負けているくせに、強気な俺。
【night】の噂は耳が腐るほど聞いた。総長になりたてだった俺は、興味をもった。その総長が女かもしれない、という噂を聞いてどんなもんか気になり、喧嘩を売りにいった。
やりあった時は、こんなやつが女のはずがねえと思った。けど、ナンバーズのソイツを見る目がどうも優しすぎていた。
女だとわかったのは【night】と一緒になって喧嘩した帰り。
「俺らのアジト来る?」
ソイツは言った。ナンバーズのやつ等は嫌そうな顔をしていたが、俺は誘いに乗る。ソイツは俺の憧れだったから、ソイツのところにはどこにだって着いていきたかったし、ソイツのためなら命を捨てることだってできると思っていた。俺って軽くストーカー?
着いた先は高級ホテル。入った部屋はスイートルーム。どうやらナンバーズの中にボンボンがいるらしい。
いろいろな意味で変わっている集団。
それからソイツは風呂に入りにいく。その間、俺はナンバーズと話をしていた。全員が全員個性的で変わっていて、でも妙に大人びていてかっこよかった。一部を除いて。
「まっか」
「あ?」
「自分でやってるの?」
「ああ」
「僕もやりたーい」
bT.森勇気。男とは思えないほどのかわいらしさ。甘ったるい声。本当にこっちの人間かよ、と思うほどにチビで細い。
喧嘩になると、忽然と姿を消す。逃げたのか、と思いきやバイクに乗って人を跳ね飛ばす、同じチームのメンバーがいるにも関わらずダンプで突っ込んでくる、やることなすこと全てがはちゃめちゃでぐちゃぐちゃ。
あなどれねえ、ナンバーズ。
「楽しそうにやってるじゃねーか」
「シグレー」
俺は風呂から上がってきたソイツを見て固まる。
森が抱きついているとか、そういうのどうでもよくて、普段はジャージに帽子にサングラスという出で立ちのソイツ。格好だけを見れば、コイツ本当に総長かよ、下っ端じゃないのか? という感じ。今ソイツは、短パンに半袖Tシャツ。いつもは縛っている髪もおりていて、サングラスもかけていない。男にはないはずの膨らみがある、ってか透けてるんですけど!
固まっている俺に一言。
「俺オンナ」
開いた口が塞がらない、というのはこういうことらしい。
最初は驚いて、頭が混乱して、ナンバーズに目を向けるも誰も否定はしない。否定するどころか、全員が今ソイツを女として見ていた。
けど、まあよく考えるとソイツが女だからって何も変わることもない。強いし、かっこいいし、本当に俺の憧れ。
それがいつどう間違えて恋愛感情になったかは、憶えていない。
そしてソイツは天然なのか、物凄く鈍感だ。メンバーがいくらアピールしても気づくことはなく、反対に
「お前らオンナできないの?」
いやいやいや、それって軽くナンバーズのことふってるよな? そして、ナンバーズもナンバーズで
「シグレを賭けて、殴りあいでもしてみる?」
笑顔でそんなことを言っていた。誰もがソイツを狂ったように愛していたのは確だ。隙を見てソイツを襲おうとする輩は、ナンバーズによって袋叩きにされていた。窪塚は大抵殴られていた。
「なあ、シグレ」
「なに」
「‥‥好きだ」
目の前にいる時雨にそう告げて抱きつくが、冗談だと思っているのだろう反応は薄い。
あのメンバーズも今や時雨の側にはいない。これは好都合。
ナンバーズに渡す気などさらさらない。
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