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08,名前を呼んで

「総長君って‥‥」

 俺には惚れている女がいる。そいつは俺を総長君と呼ぶ。ナンバーズのことは名前で呼ぶくせに、俺がいくら名前で呼べっつっても呼びやしねえ。ムカツク。
 このあたり、やっぱり俺って普通の男って思い知らされるわけよ。
 自分は特別だと思っていた。
そして、普通の人間だと思い知らされたあの日。

「俺らのところにつきな」

 とどめをささないアイツ。
 代わりにくれた言葉。

「アンタにならついていくぜ?」

 負けているくせに、強気な俺。
 【night】の噂は耳が腐るほど聞いた。総長になりたてだった俺は、興味をもった。その総長が女かもしれない、という噂を聞いてどんなもんか気になり、喧嘩を売りにいった。
 やりあった時は、こんなやつが女のはずがねえと思った。けど、ナンバーズのソイツを見る目がどうも優しすぎていた。
 女だとわかったのは【night】と一緒になって喧嘩した帰り。

「俺らのアジト来る?」

 ソイツは言った。ナンバーズのやつ等は嫌そうな顔をしていたが、俺は誘いに乗る。ソイツは俺の憧れだったから、ソイツのところにはどこにだって着いていきたかったし、ソイツのためなら命を捨てることだってできると思っていた。俺って軽くストーカー?
 着いた先は高級ホテル。入った部屋はスイートルーム。どうやらナンバーズの中にボンボンがいるらしい。
 いろいろな意味で変わっている集団。
 それからソイツは風呂に入りにいく。その間、俺はナンバーズと話をしていた。全員が全員個性的で変わっていて、でも妙に大人びていてかっこよかった。一部を除いて。

「まっか」

「あ?」

「自分でやってるの?」

「ああ」

「僕もやりたーい」

 bT.森勇気。男とは思えないほどのかわいらしさ。甘ったるい声。本当にこっちの人間かよ、と思うほどにチビで細い。
 喧嘩になると、忽然と姿を消す。逃げたのか、と思いきやバイクに乗って人を跳ね飛ばす、同じチームのメンバーがいるにも関わらずダンプで突っ込んでくる、やることなすこと全てがはちゃめちゃでぐちゃぐちゃ。
 あなどれねえ、ナンバーズ。

「楽しそうにやってるじゃねーか」

「シグレー」

 俺は風呂から上がってきたソイツを見て固まる。
 森が抱きついているとか、そういうのどうでもよくて、普段はジャージに帽子にサングラスという出で立ちのソイツ。格好だけを見れば、コイツ本当に総長かよ、下っ端じゃないのか? という感じ。今ソイツは、短パンに半袖Tシャツ。いつもは縛っている髪もおりていて、サングラスもかけていない。男にはないはずの膨らみがある、ってか透けてるんですけど!
 固まっている俺に一言。

「俺オンナ」

 開いた口が塞がらない、というのはこういうことらしい。
 最初は驚いて、頭が混乱して、ナンバーズに目を向けるも誰も否定はしない。否定するどころか、全員が今ソイツを女として見ていた。
 けど、まあよく考えるとソイツが女だからって何も変わることもない。強いし、かっこいいし、本当に俺の憧れ。
 それがいつどう間違えて恋愛感情になったかは、憶えていない。
 そしてソイツは天然なのか、物凄く鈍感だ。メンバーがいくらアピールしても気づくことはなく、反対に

「お前らオンナできないの?」

 いやいやいや、それって軽くナンバーズのことふってるよな? そして、ナンバーズもナンバーズで

「シグレを賭けて、殴りあいでもしてみる?」

 笑顔でそんなことを言っていた。誰もがソイツを狂ったように愛していたのは確だ。隙を見てソイツを襲おうとする輩は、ナンバーズによって袋叩きにされていた。窪塚は大抵殴られていた。

「なあ、シグレ」

「なに」

「‥‥好きだ」

 目の前にいる時雨にそう告げて抱きつくが、冗談だと思っているのだろう反応は薄い。
 あのメンバーズも今や時雨の側にはいない。これは好都合。
 ナンバーズに渡す気などさらさらない。




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