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05,サクラ

 心地好い眠りから目を覚ます。今日は久々によく眠れた。寝返りを打つと、壁ではなく、何か温かいものに当たる。それはなんだろう、と思い殴ってみた。

「ぐえ! てめえな」

 蛙が潰れたような悲鳴をあげる松川。そういえば居たっけ。

「相変わらずの馬鹿力だな」

「えへ」

 呆れながらも乱暴に頭を撫でてくれる松川。どうやら制服のまま寝てしまっていたようだ。くしゃくしゃ。松川の制服もくしゃくしゃ。

「アイロンないや」

 私はベッドから出て、携帯の時計を見る。もうお昼だった。学校遅刻。

「今から行くかー」

 欠伸をしつつ、学校の鞄を手に。

「俺は寝る」

 我家のように寛いでやがる。

「ここオートロックだから」

 それだけ言って、部屋を出る。
 学校への路を歩いていると、商店街に差し掛かる。

「きゃー、すごいすごい」

 脇では、胡散臭そうなマジシャンに、それを見てすごいを連発する女の人。その人以外には、誰もいない。いつものことなんだけど。
 どんどん進んでいくと、私のお気に入りのコロッケ屋に、安いのか高いのかよくわからない小さなスーパー。その他、靴、雑貨、服といろいろな店が並んでいる。この商店街を抜けて暫く歩いていると、住宅街に。それをまた抜けると、私が通っている翁花高校があるわけで。

 今日も喧嘩中。暇なのだろうか。なぜ毎回刺客を送り込んでくる、星城高校。
 私は巻き込まれないように、こっそりと中に入る。校内には入れたが、校舎に入れそうにない。今日は総長君が直々に出ているから。見つかったら、ややこしいことになりそうだ。
 私は適当な日陰を見つける。春に少しピンクがかった白い綺麗な花を咲かせるであろうその木は、青々と茂っている。私は木の根本に腰を下ろす。

「ちょっといいですか?」

 ボーと喧嘩を眺めていると、不意に声を掛けられる。声を掛けてきたのは、普通の子。おさげに眼鏡。なんとベタな。これから愛の告白でもあるのだろうか。
 私は胸を膨らませながら、その子についていく。告白されたらどうしようかな。軽く抱き合ってみる?

「シグレエ!」

 そんな甘い展開が起こることはなかった。
 着いた先。お決まりの校舎裏、みたいな? 私をつれてきた子は、ビクビクしながらどこかへ消えていく。パシリに使われちゃったのね、ドンマイ。

「痛い目みてもらおうか!」

 と言って私を取り囲む皆様。先頭きって話、というか一方的に怒鳴っているのは、【butterfly】総長、本田菜実。長い金に染めた髪を後ろで一つに縛り、この学校の制服の上に、特効服を着ている。ちなみに、レディース。

「えー‥‥どういうことでしょうか」

「うるせえ!」

 そんなこんなしている内に、後ろから体をガッチリ固定される。いよいよ逃げられない。質問に答えるぐらいしたらどうだろうか。まったく最近の若い子は。

「殴られとけ!」

 ストレート、私のお腹に直撃です。私は声をあげない。歯を食いしばって、なんとか耐える。耐えるっていっても、そんなにダメージ食らってないけど。ここは効いているふりをしよう。その方が早く終わりそうだ。意外にも顔を殴ってこない。
 次々と降りかかる、理不尽な暴力。ってか、なんで? こんなことされる覚えはない。私が元総長なんて、知っているはずはない。

「げほっ!」

 今のは効いた。鳩尾にいれるなんて‥‥さすがにやっさしい私でもキレたくなるわ。だってさ、一般人だよ、私。一応。

「っざけんな!」

 叫んでみた。本田は予想していなかったようで、固まっている。無抵抗のまま終わると思っていたんだろう。甘い甘い。やられた分だけやり返す。これ、常識ね。
 後ろで私を固定しているやつに、肘鉄一つお見舞い。私って馬鹿力だから、一発で沈んでしまった。張り合いがない。

「やる前に説明してくれなきゃ黙って殴られないゾ」

 もう殴らなくていいよ。

「ハギワラに近づきすぎなんだよ、お前は!」

 もしかして、総長君のこと好き?

「あー‥‥恋の邪魔しちゃ駄目だよねえ‥‥ごめんね?」

「―っ!」

 みるみる間に顔が赤くなる本田。乙女だ。

「うっせえ!」

 と本田は殴りかかってくる。仕方ない、沈めてやろう。

「その辺にしたら?」

 見るとそこには、いつからいたのだろうか青髪君がいた。相変わらず携帯をいじっている。携帯が友達ってか?

「邪魔すんな」

「えー、嫌」

 青髪君を睨みつける本田。笑顔でそれを受け流す青髪君。空気が変わる。周りにいるやつらも、緊張しているようだ。仮にも相手は、あの【moon】の副総長。そうそう敵う相手ではない。

「シグレー、お前になんかあったら総長にボコられるの俺なんだからな」

「‥‥さいですか」

 このさいボコボコにやられてしまってください。
 私は本田に向き直る。両肩を掴んで一言。

「んだよ!」

「いつでも話聞いてあげるから」

「は?」

「アデュー」

 青髪君を連れて、この場を後にする。一件落着って感じでもないけど、まあいいか。

「喧嘩買うなよ」

「買ってないよ」

「買いそうになっただろ」

「そうだけど」

「元【night】の総長がふざけんなよ。ホンダを殺す気かよ」

 なんでお前がそれを知っている。総長君しか知らないはずだけど。

「酔ってる時に口を滑らしたんだよ、総長が。」

 あの野郎、誰にも言うなって言ったのに。これはもう、顔面パンチを食らわすしかないかな?

「ちなみに、俺しか聞いてなかったから。全員寝てたし」

 お酒万歳。

「借り一つね。じゃ」

 と、携帯でどこかに電話しながら去っていく青髪君。なんか珍しく今日かっこいいよね。ときめいちゃう。

「お、シグレ」

 とりあえず、どこかのバカ総長の腹に一発決めた。




あきゅろす。
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