どうして時雨に会いにこようと思ったか、俺にも分からない。
「元気そうだな」
目の前には時雨と、森がいる。森はここの店長の顔面を殴り、気絶させていた。しかし店長は手に持っているカメラを全く離さずに倒れている。森はそのカメラを奪うのを諦めたようだった。
時雨は呑気にジュースを飲んでいた。森は俺をジッと見ている。
何をしの来たのかと言われれば、答える言葉はない。なんとなく、俺はここに来ていた。高浜とは未だに連絡をとっていて、高浜から時雨情報を教えてくれた。
「俺さ、【night】の副総長やってんだ」
時雨にそう言うと、時雨は驚いたように俺を見る。
「総長じゃないの?」
そう言われても、誰も好き好んで【night】の総長なんてしたくない。時雨が総長だったころ、他のチームは崇拝に近いぐらい【night】に惚れこんでいた。そして皆が【night】の総長・Kに憧れていた。その【night】を率いるKが急にいなくなったと聞いた他のチームたちは、一気に【night】を自分たちの物にしようとし始めた。ナンバーズはというと、そんなことに興味を示さず時雨を追いかけて【night】から消えていった。
その時からずっと、戦争が続いていた。時雨がいたときより激しいものではないが、それでも楽なものではない。全国制覇なんて、時雨がいなくなってからそんなものなくなっている。各地のチームたちはほとんどが解散してしまった。
チームとして残っているのは、【night】と【moon】と【sky】とぐらいだ。その他はチームの残りかすだけ。その【night】もギリギリの状態。
「はあ、シグレは呑気だなあ」
目の前でジュースを飲んでいる時雨は、あの時あった阿修羅のような雰囲気がなくなっていた。ただの一人の女だった。
「……ハマチャンさあ」
「なんだ?」
「私の家の鍵とか持ってないよね」
「はあ? 持ってないけど」
「ならいいんだ」
俺は時雨が好きだ。でもそれは恋愛感情とかそういうものではない。戦友として、好きだ。だから、時雨を好きなナンバーズを見ていると、あの時俺はナンバーズを抜けて正解だなと思う。一時、本当に時雨が好きなのではないかと考えたこともあるが、それは違った。
「なにしに来たの、ハマダ」
森が俺を見ながらそう言った。いや、別に何かをしに来たわけではないし、森の大好きな時雨にちょっかいを出しに来たわけでもない。ただ、時雨を見られればそれでよかっただけ。
「んー、様子見?」
「ふーん」
森はまったく興味がないようだった。なら聞くなよ。
「ハマダア!」
すると急に大きな声が喫茶店内に響き、俺は入り口の方を見る。するとそこには【night】の現総長・黒沢がいた。黒沢は俺の姿を見つけるなり、俺のほうへ走ってくる。そして腕を俺の首に回し、俺の首をしめる。
「お前はなあ、勝手に行動するな」
「ごめんごめん」
「思ってねえだろ」
「はは、なあシグレ」
時雨はぽかんと俺たちを見ていた。
「こいつの名前はクロサワ。今の【night】の総長」
時雨は、黒沢を数秒見つめてから笑った。
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