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36,電話

「なにコイツ気持ちわるい」

 森を引きずりやっとのことで根性に辿り着くと、そこには待ってましたと言わんばかりの店長が出迎えてくれた。そして私に迫ってきて私の肩をがしりと掴む。その時すぐさま森が店長の胸倉を掴んだ。
 店長は森をしばらく見つめていたが、次の瞬間森に抱きつく。森は不愉快な顔をして店長の頬を殴った。店長は殴られた瞬間に何かのスイッチが入ったようで、キラキラと輝いていた。

「いい!」

 そう叫ぶ店長はドMだ。今の店長には森しか見えていないようだった。

「……一応私の雇い主だから」

 私は森に、一言そう言って斎藤さんのところへ行く。斎藤さんは大きな溜息を吐いていた。店の中を見るとちらほらと客がいるが、寝ているか自分たちの世界に浸っているかで、仕事はあまりなさそうだった。

「あれはどうにもならないな」

 斎藤さんがそう言って、私も森と店長を見る。そこでは店長がカメラで森を撮っている。森はそのカメラを奪おうとするが、店長の動きがあまりにも素早すぎて森は苦戦していた。

「……サイトウさん」

「なに?」

「あの人、腕折れてるんじゃなかったですか?」

「ああ、根性で治すとかなんとか言ってたね。まだ治ってないけど」

 斎藤さんは笑いながらそう言った。
 店長は包帯が巻かれている右腕を、痛くもないように動かしている。恐ろしい店長だと思った。そして、あそこまで店長を動かせることが出来るチームとは一体何なのだろうか。というか、店長が何なのだろうか。
 未だ攻防を繰り返す森と店長を眺めていると、レジの横の電話が鳴る。斎藤さんははいはいと面倒臭そうに電話に出る。二言三言話をして、私に受話器を差し出してきた。

「……電話接客は初め」

「あんたに用があるとさ」

 もしかして斎藤さんも人の話を聞かない人なのだろうか。
 誰だろうかと思いながら受話器を受け取る。

「もしもし」

『久しぶり!』

「……どちら様で」

『ちょ、忘れたのかよ! 俺だってば』

 もしかして、これはオレオレ詐欺?

「詐欺には引っかからない」

『ちげーよド阿呆が!』

 しかし人間というものは一度疑ってしまうと、疑いから簡単には抜け出せないという生き物だ。

『なんだよ俺のこともう忘れたのかよ。チクサより、俺といたほうが長かっただろうが……はあ、シグレのばかやろう』

 誰か分かったが、ちょっと面白そうなので放って置くことにする。

『俺がナンバーズ抜ける前はよく一緒に無茶して遊んでたのに……その思い出さえ水の泡か! けっ、どうせ俺なんて電源入れても電源つかねえエアコンと同じだよ』

 その比喩はよく分からないが、前と変わらない言い方に思わず笑う。

「なに笑ってんだよ」

 そして脳天に衝撃が起こり、何事かと後ろを向くとそこには今電話をしているはずの浜田がそこにいた。

「ってかアイツら何してんだ?」

 元bV浜田直貴は森と店長を見てそう言った。




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