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35,欠片

 今日の晩ご飯はハンバーグだ。
 今日もいつものように学校へ行き、総長君と谷川に絡まれ、帰る時には山下がいたので頭を触った。山下が総長君にボコされていたが、私は知らないふりをした。そして私は寄り道をせず、家まで一直線に帰った。

「おかえり、今日はハンバーグだよ」

 やはり森が家にいるのは夢ではなかった。昨日から、森がここに住み始めたのである。
 ソラはというと、おいしいご飯を作ってくれる森にすぐ懐いていた。森はというと、そんなソラがうざったいのか、ソラを無視している。森は動物というのが嫌いである、人間を含め。包丁を持ってソラを見下ろすその姿はとても恐ろしかった。

「ソラの散歩、行ってくれた?」

 鞄をベッドに放り投げながら森に聞く。

「……いったよ」

 森はすごく嫌そうな顔で答えてくれる。

「シグレの犬だから、がまんする」

 そうしてもらわないと困る。きっと、そこら辺の犬ならば完全に無視、もしくは危害を加えているだろう。

「なんじに、ごはん食べるの?」

 もりはそう言いながら、いつの間にか部屋の隅で体育座りをしていた。相変わらずだった。森曰く、そこが一番落ち着くらしい。

「んー、何時にしようかな」

 森が作ってくれたご飯を何時に食べるかを考える。森が作ったご飯はとても美味しい。今、部屋には美味しそうな匂いが充満している。今すぐ食べたいが、それにしては早すぎる時間だ。
 私がそう悩んでいると、玄関の鍵が外から開く音がする。このマンションのドアはすべてオートロックになっている。一度ドアを閉めてしまうと、鍵を使わなければ中には入れない。
 私は森を見た。森は全員がこの部屋の鍵を持っていると言っていた。ならば、いま鍵を開け中に入ろうとしているのはナンバーズの誰かになる。一体誰だろうと玄関を見る。ドアはゆっくり開き、そこから現れたのはピンクの髪の男。

「……スエチャン?」

 そう呼ぶと、ピンク髪の男は嬉しそうな顔をする。でも何故だか顔だけを出したままで、中に入ってこようとしない。

「シグレー!」

 その状態のまま笑顔で、私に向かってそう叫ぶ。相変わらず兄とは違い、元気な子だ。

「入ってくれば?」

 そう言うと、bP2末吉太陽は顔を横にふる。

「ユウヒより先にはシグレには抱きつかないの!」

 抱きつく前提の話なんだね。夕陽というのは末吉の兄だ。

「チクサがシグレの話ばかりするから、気になって見に来ただけ!」

 末吉はそれだけ言って、顔を引っ込めた。そしてドアも閉まる。私はしばらくドアを見ていたが、もう一度ドアが開く気配がないので私は玄関から外に出る。通路を見るが、誰もいない。

「……なんだったんだろう」

 私は不思議に思いながら部屋の中に戻った。すると今まで部屋の隅にいた森がベッドの上に移動していて、私の鞄の中を探っていた。
 本当に何をしているんだ、この子は。
 森は私の鞄から携帯を取り出し、手のひらに乗せてじっと見ている。すると森が見ている中、携帯のバイブが鳴り出す。森は二つ折りの携帯を開け、中の表示を読む。

「サイトウ、だれ?」

 私はすぐさま森の手から携帯を奪い、通話ボタンを押す。

「もしわあ!」

 電話に出ると森が私に勢いよく抱きついてきた。

『……新しいギャグ?』

 サイトウさんに冷たくそう言われ、少しだけ傷ついた。

『まあ、いいけど』

 違いますけど。

『今からちょっと来て』

 バイトだろうか。でも私の親指は折れている。まともに手伝えるか分からない。

「今、指が折れて」

『店長の相手をしてくれたらいいから』

 そんなバイト行きたくない。

『できれば、この間いた男の子連れてきてよ』

 高浜を?

『あれからずっと落ち着かなくて……まあ、とりあえず来てね』

 それだけ言われ、電話が切れた。
 話の流れ的に、店長がただいま暴走中というやつか。そんなところには行きたくはないが、斎藤さんが困っているとなると放っておけない。美人なお姉さんは助けなさいと、教えられたことがあるかもしれない。

「だれ?」

 腹には森が抱きついている。森は私をじっと見て、私もなんとなく見つめ返した。
 そして私はあることを思いついた。

「ユウチャン……出かけようか」

「めんどいから、やー」

 まったく外に出る気がない森は、私の腹に顔を押し付ける。そんな森を無理やり引きずり、バイト先へ向かった。




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