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31,シングルライフ

 今、時雨の家にいる。時雨は僕の頭に手を乗せて、僕と見つめあっている。
 時雨は何にも変わっていなかった。どうせ、僕がここにいようがいまいが、時雨にとったらどうでもいいことなのだろう。
 時雨は変わらない、何も変わっちゃいない。見た目は女っぽくなったけれど、それ以外は変わっていない。今日、久しぶりに時雨を見たけれど。今日、久しぶりに時雨に会ったけれど。何も、変わっていなかった。
 そのことに安堵する自分がいる。そして、僕も何も変わっちゃいない。時雨に会ったときに、僕だとすぐに分かるように。時雨が僕を分かってくれたように、僕も時雨がすぐにわかるよ。

「ユウチャン、ここに住むってどういうこと?」

「そのままだよ」

 最近、萩原が時雨と仲良くしていると聞いた。僕は萩原のこと嫌いじゃない。だから時雨と仲良くするぐらいいいけれど、それにしても僕が時雨に会えないぶん、萩原が時雨に会いすぎている。
 そのことに嫉妬する僕。
 時雨を僕のものにしたくないと言えば嘘になるが、時雨が他の誰かと仲良くするぐらい僕はいい。時雨はちゃんと僕の事を見てくれている。それだけで十分だと思う。
 僕からしたら、千種が異常すぎるのだ。あの独占欲は、自分を重く縛りつけ、傷つけてしまうだけ。

「急だね」

「シグレも急にでていったじゃないか」

 そう言うと時雨は困ったような顔をする。このことに関しては、時雨に言い訳はさせない。というか、時雨は言い訳なんてしないだろう。僕たちを捨てたことに、責任を感じているはずだから。
 時雨は、やった後に後悔する人間だ。やらないより、やった後で後悔するほうがいいなんて言っていたけれど、少しは皆の気持ちを考えて欲しい。時雨は一人じゃないんだと、どうして気がつかないのだろうか。
 僕たちは血の繋がっていない他人だ。けれど、大切な仲間なんだとそう信じているから。だからこそ、時雨のチームを捨てたことに対して、僕はすごく怒っている。

「ばかばか無責任なシグレ」

 時雨には時雨なりの考え方があったのだろう。それにしても、今回ばかりは簡単には許さない。

「いままでの空白のじかんを、僕にかえしてね」

 なんにも楽しくなかった。昴と遊んでも、律兄と暴れても、なにも得られない。ただ虚しいだけだった。松川のように、時雨がいない分を暴力で埋め尽くそうとした。窪塚のように、煙草の煙でいっぱいにしようとした。でも、どれもすべて無意味だった。
 時雨に代えられるものは何もないのだと、みんなわかっていた。

「どうしてここまで、君をおもうのかな」

 時雨はまた困った顔をして、僕の頭を撫でるだけ。
 これが、夢ではないことを僕は祈っている。

「僕はここにすむからね」

 すこしずつ、僕に君を還してね。




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