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30,納得行かない

 山下と別れてから、私はソラを連れて家に帰った。

「ただいま」

「おかえり」

 返ってくるはずのない言葉が部屋に響く。私は驚き玄関から部屋の中を見ると、そこにはエプロンを着てご飯の用意をしているbT森勇気の姿があった。

「きょうのごはんは肉じゃがだよ」

 今までここで生活していたかのようにそこにいる森。私にはさっぱり訳がわからない。なんで森がここにいるのか、どうやって部屋に入ったのか。

「僕がここにいるワケをしりたい?」

 森は私のほうを見ず、手元を見ながら聞いてくる。

「シグレ、右手つかえなくてふべんそうだから」

 私が何も言わないのにいろいろと話してくれるのが森だ。

「僕がシグレのおてつだいしてあげる」

「ユウチャ」

「いいから早くはいりなよ」

 どうしてだろう、ここが私の家でないような気がするのは気のせいなのだろうか。
 とりあえず私は部屋の中に入る。ソラはというと真っ先に部屋に入り、ベッドの上で寝ていた。部屋に知らない人間がいるにもかかわらず、どうしてこう呑気なのだろうか。絶対に番犬はできないな。
 森の後ろを通り過ぎる時、森がぽつりと呟いた。

「あいたかったよ」

 そんな森の頭を撫でて、私はベッドに腰掛けた。そこから森の後ろ姿を見つめていた。
 身長は昔からそこまで高くはなかった。今で、私と同じくらいだ。髪はオレンジがかった茶髪。左耳には五つ、耳たぶにピアスがあいている。
 肩幅も狭く、細い体。でも体は柔らかく、喧嘩をしても避けるのが上手い。そしてカウンターが怖い。だって、ナックルで顔面を殴られるのだ。いくら力が弱くたって、ナックルは痛い。いや、力は弱くなかったか。あの体のどこに力があるのかというくらい、馬鹿力だった。
 舌足らずの甘い声。童顔でかわいく、女と見られてもおかしくない。

「できた」

 森は準備が終わったのか、エプロンを外してこちらに近づいてくる。そして私の前で体育座りをして、上目遣いで私をじっと見ている。

「とてもおそろしいことを教えてあげる」

 できれば教えて欲しくはないけれど、そんなことを言っても話し出すだろう。

「シグレのへやのかぎ、スバルが全員にわたしていたよ」

 ……聞かなかったことにしたい。
 というかなんて事をしてくれているんだ高浜。

「どうしてシグレのへやは、他のへやよりちいさいの?」

 確かに他の部屋よりはるかにこの部屋は小さい。でも、私は狭いほうが落ち着く。

「僕、きょうからここにすむからね」

 どうしてそうなる。

「一緒にねようね」

 いいよ、ではなく、待て。どうしてそういう話になっているのか説明して欲しい。

「シグレに、拒否権ないよ」

 森は私の膝の上に両手を重ねるようにして置く。その上に頭を乗せて、それでも私から目を逸らさない。私はそんな森の頭に手を乗せる。森はにこりと笑った。




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