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29,息も絶え絶え

「シグレ、犬飼い始めたのか?」

「うん」

 隣で総長君がソラを抱いている。そして総長君の下では山下がノびていた。先ほど、総長君が本田の名前を出した瞬間に、山下が総長君に殴りかかるという事件が発生。
 力の差は歴然なのか、蹴り一発で事を治めた総長君。

「どけ、ハギワラ」

「やだね」

 総長君の下でとても苦しそうな山下。どいてあげればいいのに。

「シグレとイチャイチャした挙句に、頭まで撫でられて……俺もされたことないのに!」

 小学生か。

「ハギワラ、どけよ」

「どーしよーかな」

 そういう総長君はとても笑顔だ。

「仲、いいんだね」

 どう考えても一方的な関係の二人に言ってみた。

「いいぜ」

「よくねえ」

 二人同時に返事が返ってくる。

「なんだよ、毎日俺に会いに来てるじゃねーか」

「キショク悪いこと言うな!」

「ああ、あれか? 本田にでも」

「勝手に話を作り上げてんじゃねえよ!」

 総長君の下で必死になって叫んでいる山下。総長君は笑顔で楽しそう、けど山下は苦しそう。端から見るとかなり怪しい。もしかして、その近くにいる私も怪しい?
 私はそう思い至って、この場を離れることにした。が、それを総長君が見逃すわけがなかった。

「俺らと本田は家が近いのもあって、昔から仲がいいんだよ」

 仲がいいのは分かったから手、離してくれないかな? すごく痛いんですけど。折れた親指がドクドク波打っているのがわかります。

「山下も翁花に来ると思ったんだけどな」

「はっ、何で同じとこに行かなきゃいけないんだよ」

「しかも行った先が星城って、最悪だ」

 総長君は頭を抱えている。何が最悪なのだろうか。私の最悪は今総長君に手を掴まれていることだけれど。

「あれ、何でシグレがいるんだよ」

 なんでお前がいるんだよ。
 現れたのは谷川。谷川は未だに繋がれている総長君と私の手を、チョップ! と言いながら無理やり外す。一応、怪我しているんだけど、私。

「こんなんで死なないだろ」

 そうだけどさ。あれだよね、谷川は思いやりに欠けるよね。もっと気がつけるようになろうよ。

「総長、こんなとこで遊んでないでさっさと行くよ」

「はあ、気が重い」

 総長君は渋々といった感じで、山下の上から退いた。開放された山下はすぐさま体を起こす。顔は赤く息が切れていた。死ぬ一歩手前、みたいな。

「じゃあシグレ、俺らは今からあのヒステリック女のところに行ってくる」

 誰?

「こないだ拉致られたじゃねえか」

 ああ、あの女ね。今、何してるんだろう。
 というか、今からどうなるのだろう。

「じゃあな」

 それだけ言って、総長君と谷川はバイクに乗って去っていった。
 なにをしにきたんだろうか。

「なんなんだあいつは」

 山下がそう言いながらまた私の隣に座った。そしてソラが山下の膝の上に乗る。心なしか山下が嬉しそうな顔をしていた。

「ホンダはハギワラが好きなんだよ」

 なんの前振りもなく話し出す山下。

「ハギワラが【moon】の総長になったのはいいんだ。でも、いつのまにか【night】とつるむようになって、ここにいることもなくなってな……その間、ホンダがすげー寂しそうで、口ではいろいろ言ってたが、一人になったらいつも暗い顔してよ。俺にはそれが耐えられなかった。」

 ソラを撫でながら、下向き加減に話す山下。

「ま、まあ、俺はホンダの事なんてなんとも思ってねーけどよ」

 いや、明らかに今嘘ついたよね。本田のこと、好きなんだよね。

「いままでずっと三人一緒だったんだ。悪いことする時も、楽しむ時も、悲しむ時も、な。そりゃ、寂しくないことなんてねーよ」

 やっぱり仲がいいんだね。

「離れてもあいつは変わらなかった、だからこそ俺たちは安心してここにいられるんだ。いつでもあいつを迎えられるようにな。」

 なんか、感動するよね。

「あいつの帰る場所は、【moon】でも【night】でもねえ。ここなんだって、わかってほしいだけなんだよ。なあ、あんたは運命って信じるか? 同じ病院で同じ日に、同じ時間に生まれた俺たちが、今まだこうやってここにいるんだ。切ろうたって、切れやしないだろ、この運命ってやつは」

 もしも山下が翁花の頭になってしまえば、萩原が帰って来られないと言いたいのか。
 でも、頭にならないという手もあったのでは?

「はん、翁花と昔から仲が悪い星城に入ったのは、好き勝手やってるあいつに対しての当てつけだ」

 まあ、山下は馴れ合いすぎるのもどうなのかと思ったのか、もしくは本田のことを思ったのかは分からない。でも山下は総長君のことや本田のことを大事にしているんだということはわかった。

「なんでこんな話を俺はあんたにしてんだよ」

 山下はため息を吐きながら、膝の上にいるソラを撫でていた。私は山下の頭をまたぺちぺちと叩いた。
 山下はチラリと私を見てまた、ため息を吐いた。

「勝手にしろ」

 人にはその人なりの考え方がある。でも、それは言葉にしないと伝わらない。
 そして、人は恋をすると嘘つきになるのだと、今初めてわかった。




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