只今、ソラの散歩中。私はソラに紐もつけずに、ソラが向かうほうについていく。ソラは歩く途中で花や虫を見つけては、寄り道してまた先に行く。
今は河原を歩いている。ソラは寝転んだり走ったりと大忙しだ。
「……ソラ?」
ソラは立ち止まり、向こうのほうを一心に見つめている。そして、そちらのほうに全速力で走っていく。
私はソラの後ろをのんびりとついていく。
視界の中で、ソラが何かに飛びつくのが見えた。元気すぎる。
そして、ソラに近づけば近づくほど、センスの悪い服が見えてくる。
赤い生地に薔薇の絵。しかもびっしりと描かれている。眩暈がしそうだ。
ふと頭に浮かんだのは、根性のエプロン。あれとこの薔薇の服はいろいろな意味で並んでいると思う。一体どこで手に入れているのだろうか。
「……」
しかもその服を着ているのはスキンヘッドときた。しかもサングラスまで掛けているが、薔薇の服の所為で怖さは半減だ。いや、ある意味怖いかもしれない。
それにしても、このスキンヘッドをどこかで見たことがあるような気がする。
スキンヘッドは飛びついていたソラと楽しそうに遊んでいた。あれだね、人を見かけで判断しちゃダメなんだね。
「ソラ」
ソラを呼ぶと、スキンヘッドの頭を軽く殴ってこちらに戻ってくる。そして私の足元に座った。
私はスキンヘッドを見る。スキンヘッドも私を見ている。
「お前は」
「あ、あー」
私はスキンヘッドの正体を見破った。
星城高校の山下智数だ。いつも総長君と喧嘩しているヤツ。
「なんでハギワラの女がここにいるんだ」
どうしてそういうことになっているんだ。
とりあえず、山下の隣に座ってみる。
「な、なんで隣に座るんだよ」
「なんとなく」
座った私の膝にはソラが体を丸めて寝にかかっている。
「お前のところの犬か」
「うん」
山下はソラを撫でる。動物が好きなのだろうか。
「捨てられてたのを拾ってね、かわいいでしょ?」
そういうとソラを撫でていた手をのけて、体ごとそっぽを向いてしまった。
「俺はそう言うのが大嫌いなんだ」
そういうのというのは、犬を捨てると言うことだろうか。
私は山下の頭をペチペチ叩く。
「なんだよ」
向こうを向いたまま山下は言う。
「俺の頭触りたけりゃ、金払えよ」
「はは、山下はいいやつだねー」
「……金払え言われてるのにいいヤツと思うお前は馬鹿か」
山下は私の手を叩き落とす。
「いった」
右手で山下の頭を触っていたものだから、叩かれた時に折れた親指に響いた。
「え、あ、悪い」
山下は私のほうを見ながら謝ってくる。そして、私の指の包帯を見て焦っている。
「お、俺のせいか?」
頭悪いのかな?
どうしようどうしようと困っている山下はなんだかかわいい。私はまた、山下の頭をペチペチ叩く。
「……ちぇ」
もう山下は抵抗する気がないようだ。
「面白いねー」
ソラが顔を上げて、わんと鳴いた。
その瞬間に、触っていたはずの頭がなくなって、代わりに総長君が出現した。
「う……」
唸り声が聞こえてそちらを向くと、山下が転がっていた。
「ヤマシター、そんなところで寝たら風邪引くぞ」
総長君がそう言うと、山下はゆっくり起き上がって、総長君を見る。サングラス越しでは見えないが、きっとあれは総長君を睨んでいる。
「指大丈夫か?」
総長君は何事もなかったように私の手を触っていた。
「何しやがんだテメェは!」
山下が叫ぶ。
「シグレといちゃいちゃしてるお前が悪い」
さらりとそう返した。なに言ってんのこの子。
「してねーよ、ばか!」
なんか全力否定されるとちょっと傷つくな。
「ここにホンダがいたらよかったな?」
総長君が意地悪げにそういうと、山下の顔が真っ赤になる。
もしかして山下は本田のこと好きなのかな?
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