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28,薔薇色

 只今、ソラの散歩中。私はソラに紐もつけずに、ソラが向かうほうについていく。ソラは歩く途中で花や虫を見つけては、寄り道してまた先に行く。
 今は河原を歩いている。ソラは寝転んだり走ったりと大忙しだ。

「……ソラ?」

 ソラは立ち止まり、向こうのほうを一心に見つめている。そして、そちらのほうに全速力で走っていく。
 私はソラの後ろをのんびりとついていく。
 視界の中で、ソラが何かに飛びつくのが見えた。元気すぎる。
 そして、ソラに近づけば近づくほど、センスの悪い服が見えてくる。
 赤い生地に薔薇の絵。しかもびっしりと描かれている。眩暈がしそうだ。
 ふと頭に浮かんだのは、根性のエプロン。あれとこの薔薇の服はいろいろな意味で並んでいると思う。一体どこで手に入れているのだろうか。

「……」

 しかもその服を着ているのはスキンヘッドときた。しかもサングラスまで掛けているが、薔薇の服の所為で怖さは半減だ。いや、ある意味怖いかもしれない。
 それにしても、このスキンヘッドをどこかで見たことがあるような気がする。
 スキンヘッドは飛びついていたソラと楽しそうに遊んでいた。あれだね、人を見かけで判断しちゃダメなんだね。

「ソラ」

 ソラを呼ぶと、スキンヘッドの頭を軽く殴ってこちらに戻ってくる。そして私の足元に座った。
 私はスキンヘッドを見る。スキンヘッドも私を見ている。

「お前は」

「あ、あー」

 私はスキンヘッドの正体を見破った。
 星城高校の山下智数だ。いつも総長君と喧嘩しているヤツ。

「なんでハギワラの女がここにいるんだ」

 どうしてそういうことになっているんだ。
 とりあえず、山下の隣に座ってみる。

「な、なんで隣に座るんだよ」

「なんとなく」

 座った私の膝にはソラが体を丸めて寝にかかっている。

「お前のところの犬か」

「うん」

 山下はソラを撫でる。動物が好きなのだろうか。

「捨てられてたのを拾ってね、かわいいでしょ?」

 そういうとソラを撫でていた手をのけて、体ごとそっぽを向いてしまった。

「俺はそう言うのが大嫌いなんだ」

 そういうのというのは、犬を捨てると言うことだろうか。
 私は山下の頭をペチペチ叩く。

「なんだよ」

 向こうを向いたまま山下は言う。

「俺の頭触りたけりゃ、金払えよ」

「はは、山下はいいやつだねー」

「……金払え言われてるのにいいヤツと思うお前は馬鹿か」

 山下は私の手を叩き落とす。

「いった」

 右手で山下の頭を触っていたものだから、叩かれた時に折れた親指に響いた。

「え、あ、悪い」

 山下は私のほうを見ながら謝ってくる。そして、私の指の包帯を見て焦っている。

「お、俺のせいか?」

 頭悪いのかな?
 どうしようどうしようと困っている山下はなんだかかわいい。私はまた、山下の頭をペチペチ叩く。

「……ちぇ」

 もう山下は抵抗する気がないようだ。

「面白いねー」

 ソラが顔を上げて、わんと鳴いた。
 その瞬間に、触っていたはずの頭がなくなって、代わりに総長君が出現した。

「う……」

 唸り声が聞こえてそちらを向くと、山下が転がっていた。

「ヤマシター、そんなところで寝たら風邪引くぞ」

 総長君がそう言うと、山下はゆっくり起き上がって、総長君を見る。サングラス越しでは見えないが、きっとあれは総長君を睨んでいる。

「指大丈夫か?」

 総長君は何事もなかったように私の手を触っていた。

「何しやがんだテメェは!」

 山下が叫ぶ。

「シグレといちゃいちゃしてるお前が悪い」

 さらりとそう返した。なに言ってんのこの子。

「してねーよ、ばか!」

 なんか全力否定されるとちょっと傷つくな。

「ここにホンダがいたらよかったな?」

 総長君が意地悪げにそういうと、山下の顔が真っ赤になる。
 もしかして山下は本田のこと好きなのかな?




あきゅろす。
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