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03,再開

 寂しいと思えど、あんな形でチームを出たのである。会おうにも会えない。
 あの子達ならやって行けるでしょう、と自分に言い聞かせて、毎日を過ごす。何の変哲も刺激もない毎日。それがだんだん、いいと思えるようになってきた。周りは激しいのが多いが。

「シグレ‥‥」

「だーかーら! 何回言ったらわかるんだよテメェは!」

 相変わらずの、総長君と青髪君。慣れちゃってますから。おい、太股触るな。

「‥‥マツカワだ!」

 太股に伸びてきな手を払っていると、そんな声がきこえてきた。総長君はハッと、顔を上げる。全員が窓際に寄る。総長君も外を見る。私も外を見る。
 驚くことに、【night】の幹部、松川がそこにいた。bQ、松川岬。
 私は総長君を見る。総長君は、俺は知らないという顔をしている。総長君は私が【night】の総長だったことを知っている。仕方がないっちゃあ、仕方がないのだが。

「行ってくる」

 総長君はそう言って、教室を出る。総長君ははどちらかと言えば、平和派のほうに入る。私が見てきた中ではそうだ。だから、どうにか喧嘩沙汰にはならないだろう。
 松川は過激派なんだけど。
 外を見ると、向かい合う松川と総長君。何やら話し合っているようだ。
 それにしたって、どうしたってんだ。今まで一度だって、ナンバーズの誰かがここに来たことはない。突撃学校訪問なんて、笑ってられない。

「シグレー!」

 総長君がこちらに向かって大きく手を振る。お前さ、私が会いたくないの知っているだろう?
 私はサッと身を沈める。壁が私を見えないようにしてくれるはずだ。

「久々じゃねえか。照れるなよ」

 早っ! ついさっき、下にいたよね?
 混乱している私とは逆に、落ち着いている総長君。こちらに歩み寄ってきて、軽々私を持ち上げる。そしてそのままどこかにつれていかれる。
 やばい、ついに犯される! と思った。その矢先、着いたのは誰も使っていない理科準備室。ああ、私のバージンはこの男に貰われちゃうのか。嬉しくない。私は電撃的に素敵な人と出会って、電撃結婚して、新婚旅行でもらわれるはずなのに!
 そんなこんなしているうちに、机に押し倒される。

「やっと、シグレを」

「殺すぞ、ハギワラ」

 回し蹴りをくらわそうと身構えた時、不機嫌そうな声が聞こえた。そちらを見ると松川がいた。

「冗談だって。ま、後はごゆっくり」

 総長君は準備室から出て行く。このままの体勢じゃさすがにまずいので、とりあえず正座をしてみる。床に。
 目の前の松川を見る。相変わらずの怖い顔だが、綺麗な顔をしている。背がまたのびたようだ。顔付きも、大人っぽくなってきている。髪は金髪で、ワックスで綺麗にセットしてある。右耳に三個。左に五個。ピアスの数も、髪型も変わっていない。

「心配すんな。俺の単独だ」

 じっと松川を見つめていた私を見てどう思ったのか、頭をガシガシと乱暴に撫でながらそんなことを言う。癒されるって、和んでいる場合じゃない。

「何しに来た?」

「会いに来た」

 脳殺。松川大好きだ。

「ミサキー!」

「ちょっ、てめえ、下の名前で呼ぶんじゃねえ!」

「冗談だよ、マッツン」

 私は松川に飛びつく。松川は嫌がる風なく、私を抱き止めてくれる。やっぱり胸板厚いな。安心する。久しぶりの感覚に、眠たくなってきた。

「寝るな」

「はーい」

 と、言いながらも離れない。ってか、離してくれない。

「どれだけ探したと思ってる」

「ごめーん」

「急にいなくなりやがって」

 抱きしめる力が強くなる。痛いけど、でもすごく嬉しい。

「帰ってこい」

「‥‥」

 予想外の言葉に、唖然。

「何、間抜け面してんだよ」

「だって」

「『泣かす。俺の下で絶対に泣かす。絶対に謝っても許してやんねー。監禁だ、監禁』クボヅカの小言だ」

「‥‥」

「『強姦じゃない? もう13Pいっちゃう?』ベツヤクの小言」

「小言‥‥?」

 あいつならやりかねない。おそろしや。

「ナンバーズは、解散した」

「‥‥は?」

「何回も言わせるな」

「解散、したの?」

「『まっとうに生きろ』どこかの誰かさんが、最後に言った言葉だ。書いた言葉の間違いか。それを俺たちは実行しようと思って、解散した。」

 解散、か。なんだか寂しい気分。よく見ると、松川はどこか学校の制服を着ていた。

「これ、どこ?」

 制服を指差して尋ねると、無感情に

「星城」

 と答えただけだった。
 星城高校は、隣町にある。ここに負けず劣らずのヤンキー校で、ここの総長君と、星城の頭は中が悪い。総長君曰く、

「性格がひん曲がってやがる。かわいくねえ」

 らしい。よく分からないが。

「他のナンバーズも、いろんなところに散った」

 ということは皆、学校に行っていると言うことだろうか。これほどまでに喜ばしい事はない。あ、子供を送り出すお母さんの気持ちがわかった。

「俺らが解散した後、誰かがまだ【night】を引き継いでいるらしい」

 私抜きでもやっていけている、ってことか。

「潰れるのは時間の問題だがな」

 駄目じゃん。

「そういえば、なんでここにいるって分かったの?」

 そうそう、それが一番の疑問だったのよ。上手く隠れたつもりなんだけどな。

「タカハマだ」

「タッチャンかあ」

 高浜はナンバーズの一人。bS、高浜昴。私は心を込めてタッチャンと呼んでいる。タッチャンがこれまたかわいいんだわ。あれこそ本当の天使。

「会いに行ってやれよ。しょげてるから」

 そんなことを聞いたら、今すぐにでも会いに行きたくなってきた。あの捨てられた子犬のようなかわいい眼差しは、もうたまらない。私って、親父みたい。

「もれなくベツヤクとチクサとハラダとスエキチがついてくる」

 会いたくなくなってきた。千種と原田と末吉はいいとして、問題は別役だよね。笑いながら人殺せるよ、絶対に。

「俺もそろそろここから消えないとヤバいな」

「なんで?」

「ハギワラとヤマシタって仲悪いだろ? 後でヤマシタにグチグチ言われるのは御免だ」

 総長君と星城の頭。なんで仲が悪いのかわからない。青髪君が言うには、幼馴染みらしい。

「総長バカだからね」

 と、青髪君は訳を知っているらしかった。あんまり深入りはしないけど。

「帰るぞ」

 私を抱きかかえたまま、立ち上がる。

「どこに?」

 そう聞くと、は? 何言ってんだ。という顔をされた。

「お前の家」

「そっかそっか、ってなんで!」

「拒否権はない。」

「‥‥わかった。とにかく降ろして」

 嫌そうな顔をしたが、こっちだって恥ずかしい。しぶしぶ降ろしてもらった。
 総長君に、後はよろしくと言って、私たちはここを出る。

「ヤマシタによろしく伝えといてくれ」

 総長君は松川にそれだけ言って、送り出してくれた。
 本当に仲悪いの?




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