学校からの帰り道、総長君に買ってもらった靴を履いて、鼻歌気分でスキップまでしてしまいそう。
何もなかったけど。
昨日は本当に立てることができなかった、というか腰が抜けた。腰が抜けて、そのあと総長君にいいように遊ばれた。
キスの嵐。
だって、あんなの私なれてないし。総長君のあのキスは、女が惚れてしまうのも分かるが私は惚れない。むしろあそこまでされると苦しい。
「…ん?」
いつもの帰り道、電柱の横には一抱えほどの段ボール箱。スイカの絵が描いてあるということは、この箱にはもともとスイカが入っていたことになる。
今は何が入っているのかなと、箱の中を覗きこむ。
「…」
そこには犬が入っていた。
覗きこんだ私に気づいて、犬は尻尾を振りながらわん、と一つ鳴いた。捨てられたことに気づいていないのか、元気に尻尾を振るその姿がとても悲しかった。
迎えに来ない飼い主をここで、ずっと待っているのだろうか。
真っ白で小さな子犬。
差し伸べようとした手を、私は引っ込めた。
「触ってやれば?」
すぐ隣から声がして、そちらを向けば見知った顔があった。
「…ベツヤク?」
いつの間にいたんだ。見た目は好青年、中身は悪魔のbU別役楼がそこにいた。
「…幽霊がいるみたいな顔しないでくれる?」
さわやか少年が隣にいて、でも私の心臓は少し早く動いている。
「心配しなくてもここでは襲わないよ」
どこで襲う気!
「元気そうでよかったよ」
絶対に殺されると思っていた。でも、すごく優しい表情で笑うもんだから、なんだか安心した。別役の体にもたれかかる。
「ん? いつからそんなに甘えるようになった?」
「いーの」
横では楽しそうにくすくす笑っている。
くーんと、白い犬が不思議そうに私を見ている。
「どうしよう、この犬」
「飼えば?」
「…あのね」
「見つけたのはシグレだし、それに見過ごせないだろ、どうせ」
あっているから言い返せない。
「もし飼うっていうのなら、協力するけど?」
私はベツヤクを見る。相変わらず、何を考えているかは分からない。
でも正直なところ、この犬を飼いたい。だって、この犬を見た時、あの子を思い出したから。また、会いに来てくれたのかと思ったんだもん。
箱の中にいる犬を抱き上げる。それを胸にしまうようにして抱く。
『この二人は双子でな』
思い出すのは始めて会ったときのこと。
『わたしはシグレアオイ。あなたたちは、そっか、なまえがないんだね』
まだ幼かった私。分からないままにその子達を受け入れた。
『じゃあ、おにいさんのほうがカイで、いもうとさんのほうが』
友達ができて嬉しかった。
私の腕の中には、確かな命がある。
「よろしくね、ソラ」
ソラはわん、と元気よく鳴いた。
別役が、ソラの頭を撫でた。
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