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26,尻尾

 学校からの帰り道、総長君に買ってもらった靴を履いて、鼻歌気分でスキップまでしてしまいそう。
 何もなかったけど。
 昨日は本当に立てることができなかった、というか腰が抜けた。腰が抜けて、そのあと総長君にいいように遊ばれた。
 キスの嵐。
 だって、あんなの私なれてないし。総長君のあのキスは、女が惚れてしまうのも分かるが私は惚れない。むしろあそこまでされると苦しい。

「…ん?」

 いつもの帰り道、電柱の横には一抱えほどの段ボール箱。スイカの絵が描いてあるということは、この箱にはもともとスイカが入っていたことになる。
 今は何が入っているのかなと、箱の中を覗きこむ。

「…」

 そこには犬が入っていた。
 覗きこんだ私に気づいて、犬は尻尾を振りながらわん、と一つ鳴いた。捨てられたことに気づいていないのか、元気に尻尾を振るその姿がとても悲しかった。
 迎えに来ない飼い主をここで、ずっと待っているのだろうか。
 真っ白で小さな子犬。
 差し伸べようとした手を、私は引っ込めた。

「触ってやれば?」

 すぐ隣から声がして、そちらを向けば見知った顔があった。

「…ベツヤク?」

 いつの間にいたんだ。見た目は好青年、中身は悪魔のbU別役楼がそこにいた。

「…幽霊がいるみたいな顔しないでくれる?」

 さわやか少年が隣にいて、でも私の心臓は少し早く動いている。

「心配しなくてもここでは襲わないよ」

 どこで襲う気!

「元気そうでよかったよ」

 絶対に殺されると思っていた。でも、すごく優しい表情で笑うもんだから、なんだか安心した。別役の体にもたれかかる。

「ん? いつからそんなに甘えるようになった?」

「いーの」

 横では楽しそうにくすくす笑っている。
 くーんと、白い犬が不思議そうに私を見ている。

「どうしよう、この犬」

「飼えば?」

「…あのね」

「見つけたのはシグレだし、それに見過ごせないだろ、どうせ」

 あっているから言い返せない。

「もし飼うっていうのなら、協力するけど?」

 私はベツヤクを見る。相変わらず、何を考えているかは分からない。
 でも正直なところ、この犬を飼いたい。だって、この犬を見た時、あの子を思い出したから。また、会いに来てくれたのかと思ったんだもん。
 箱の中にいる犬を抱き上げる。それを胸にしまうようにして抱く。

『この二人は双子でな』

 思い出すのは始めて会ったときのこと。

『わたしはシグレアオイ。あなたたちは、そっか、なまえがないんだね』

 まだ幼かった私。分からないままにその子達を受け入れた。

『じゃあ、おにいさんのほうがカイで、いもうとさんのほうが』

 友達ができて嬉しかった。
 私の腕の中には、確かな命がある。

「よろしくね、ソラ」

 ソラはわん、と元気よく鳴いた。
 別役が、ソラの頭を撫でた。




あきゅろす。
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