連れてこられた先は海の近くにある倉庫の中。ずいぶん長く車に揺られていた。
腕は紐で縛られている。
目の前では今まさに、総長君が金髪女に食われてしまいそうだ。
「ねえ、ジン。あの女がどうなってもいいの?」
「いいわけねえだろ」
「じゃあ早く抱いてよ!」
一体何がしたいの。
「だって最近あの女に構いっぱなしじゃない!」
女の嫉妬は怖いというやつか。
「昨日だって男に襲わせたけど、あの女、他に男が三人もいるのよ?」
あれはあんたが仕向けたのか。
「ねえ、目を覚ましてよジン。」
あんたが目を覚ましたほうが言いと思うよ?
「早くしないとあの女、ここにいる男たちにマワされるわよ?」
気持ち悪い。
総長君は苦虫を潰したような顔をして、女と、それから男たちを睨みつけている。男たちは怯んでいた。
情けない。
総長君、女の子殴れないもんね、優しいから。殴られてる女の子は見れるのにね。
「もう、ジンの馬鹿。」
女が左手を上げると、男たちがじりじりと私に近寄ってくる。私は後ずさりするが、後ろが壁なのでもう逃げることができない。
ああ、襲われるのかと諦め、次の手段を考えたとき
「…わかった」
と総長君の声が聞こえて、女の首に舌を這わせていた。女はと言うと恍惚としていて、私をまた、意地の悪い顔で見ていた。
「ん、ジン」
私っていつも、やった後に後悔するんだよね。
「総長君、ごめんね?」
大きく息を吸って、縛られている手を壁に叩きつけた。鈍い音が響く。
「いっつー」
何事かと、女と男たちは私を見る。
私は少しでも痛まないように親指から縄をはずすと、腕を縛るものは何もなくなった。
「甘いよ、縛る時に親指に縄引っ掛けちゃ。親指こうすると、すぐに解けるんだよ?」
右手の親指を見ると、もうすでに根元が膨れ上がっていた。
「まあ、楽しいことは好きだよ? 自分が痛くてもね。でもね、私の所為で誰かが傷つくの大嫌い」
総長君を見ると、何やってんだおまえみたいな表情をしていて、後で怒られるだろうなー、と思った。
「総長君の遊びは今に始まったことじゃないし、でも、ちょっとは遊ぶのやめたら? そんなに私を大事に思ってくれてるならさ?」
何と言うか、いい友達ができたよね私。
近くに偶然、本当に偶然転がっていた鉄パイプを左手に持って、横にいた男の顔面に叩きつける。きれいに入ったから、鼻ぐらいは折れたのではないだろうか。
「…まったく、お前は」
総長君は大きなため息をつく。そして女を押しどけて、私に近づいてくる。
頭を思いっきり叩かれた。
「いった!」
「おまえは! 帰ったら覚えてろよ!」
「…」
何もいえなかった。
「ちょっと待ちなさいよ!」
女が叫ぶ。
「散々私で遊んでくれたわね! あんたにいくら貢いだと思ってるのよ!」
総長君は何のことか分かっていないようだ。
「タニカワにジンに渡すようにって頼んだじゃないの!」
アイツに頼むのが間違ってる。
「…あのやろう」
総長君、顔が怖いよ。
「ただじゃ帰さないから!」
どこからともなくヤンキー兄ちゃんたちが出てきて、それぞれに自分の獲物を持っている。
「はっ、数だけじゃねーか」
総長君は余裕そうだ。よし、私は見ていよう。
「お前も参加するんだよ」
ですよねー。
数にして二十はいる男たち。人数が多いからと、なんだか余裕そうだ。さっきは総長君の睨みで怯んでいたくせに。
その余裕の顔が、なんとも情けない顔になるまで数分。もうすでに総長君は般若。
最終的に私は何もしていない。
「ふー、帰るか」
すごくすっきりした顔の総長君。周りには失神して動けないもの、痛みで動けないもの、全員が倒れていた。女はというと、ただ愕然と私たちを見ていた。
「ごめんね、総長君」
それから倉庫を出て、総長君が呼んだタクシーに乗って、病院に向かう。
「今日、シグレんとこ泊まるからな」
耳元でぼそりと、立てなくしてやるからといわれ、身の危険を感じた。
好奇心だけで動かないと、心の中で誓った。
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