今日は家に総長君がきた。とくに約束をしていたわけではなかったけれど、総長君が家に来て驚いたりはしなかった。むしろ来て当然と言う、なんともいえない馴れ合いだ。
家に上がった総長君にお茶を出して、昨日あった出来事を話した。総長君は黙って最後まで聞いてくれた。
「なんだか楽しそうだな」
最後は笑ってそう言った。話だけなのに、なんだか総長君も楽しそうだ。
ところで、総長君は何をしにきたんだろう。いつもなら家にきて、即効私を抱き枕にして寝るのに、今日はちゃんと座って話を聞いている。ちなみに、寝ていても話は聞いてくれる。
「シグレ、とりあえずデートしよっか」
「でーと?」
「そう」
「えー、めんどい」
「ごちゃごちゃ言ってねえでさっさと準備しろ」
「…はあ、はいはい」
強引なのはいつも。反抗してもいつかは私が折れるし、暇だからデートというやつの準備をする。
準備といっても、服は制服かジャージかスウェットぐらいしか持っていない。とりあえず、制服を着ることにした。
「ほら、行くぞ」
手を引かれて、わけもわからず総長君についていく。向かった先は登校時にいつも通るあの商店街。
相変わらず胡散臭いマジシャンと、それをきゃいきゃいとはやしたてる女の人がいる。もっと他に仕事探せばいいのに。
お昼が近いこの時間帯に、あまりこの商店街を歩いたことはない。休みというのもあるのだろう、結構な賑わいだ。
同じ学校の生徒もちらほら。私たちに気づいては、逃げるように店に入っていく。なんだか私まで危険視されているような気がする。
総長君はある一つの店に向かう。それは靴屋だった。
「何が欲しい?」
そうやって私に聞いてくるけれど、なんのことかさっぱり分からない。
「一つ、欲しいもの買ってやるよ?」
総長君が私に靴を買ってくれるらしい。なんでまた靴?
「だってお前、今履いている以外の靴、ぼろぼろで履けないだろ? だから外を出るにしてもいつも制服だし」
まあ、確かに。いま履いているローファー以外の靴はもう履けない。といっても一足しかないのだけど。
そうか、総長君はそれに気がついて気を使ってくれているのか。
「いや、ありがと。でも自分で買う」
「俺に買わせろよ」
怖いです。靴ごときで後ろにちらちらと般若をちらつかせないで。
それから私は、自分で買うことを諦めて店内を回っている。こうなったら今度から買うなんて言えないような、値段が高い靴を買ってやる。
「お前、家に結構服あるんだから、かわいい靴でも買えば?」
何故総長君がそれを知っている! そう、ジャージやスウェット以外にもかわいらしい服や何やいろいろあるが、あれには絶対手をつけたくない。
「あれ、私のじゃないから」
適当にはぐらかす。話がややこしくなるだけだ。
「…まあ、いいけど」
総長君は納得していないようだ。納得しようがしまいが、あれは私の中ではないことになっている。
「あ」
目に止まった一つの靴。それを手にとってみる。
「ん、それが欲しいのか?」
値段を見ると、総長君をぎゃふんと言わせるような値段ではなかったけれど、私はこれが気に入ったからこれを買ってもらうことにした。私って、本当に庶民。
「これがいい」
選んだ靴を総長君に見せると、靴を取られてレジに向かった。
会計中の総長君をこそっとみる。さわやかな顔で財布の中からお金を取り出す。
「…」
何あの札の量。高校生とは思えないほどのお金が財布の中に入っていた。
「どした?」
見なかったことにする。どうせ誰かから巻き上げたのだろう、そんな気がする。
店を出て、さりげなく荷物を持ってくれている総長君にお礼を言った。それから総長君と話し合った結果、ご飯を食べることになった。
近くのファミレスまで、のんびりと歩く。
「いい天気だねー」
「そうだな」
総長君とこんなふうに話すなんて思ってもいなかったけれど、悪くはないと思う。
「明日学校だ」
「だるいな」
あんたいてもいなくても好き放題してるじゃない!
「ジンくんだ!」
妙に甲高い女の声がして後ろを向くと、金髪ロングのお姉さんがいた。総長君は小さく舌打する。
「知り合い?」
こっそりと聞くと、こっそりと返してくれた。
「タニカワが連れてきた女で、一回遊んだんだ。そしたら、それからしつこくて」
それはあなたが悪いと思います。
「ジンくん!」
金髪の女は総長君に飛びつくように抱きついて、その時私と目があった。なんとも意地の悪い顔で笑っていた。
このとき後ろに気配を感じてはいたけれど、気づかない振りをした。だって、面白そうなんだもん。
「シグレ!」
後ろから口を塞がれる。そんなことしなくても叫ばないよ。
それから何故か車に乗せられて、意識があるままどこかに連れて行かれる。
その時の総長君の顔がとても怖くて、やっぱり逃げておくべきだったなと、いまさら後悔した。
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