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24,新しい靴

 今日は家に総長君がきた。とくに約束をしていたわけではなかったけれど、総長君が家に来て驚いたりはしなかった。むしろ来て当然と言う、なんともいえない馴れ合いだ。
 家に上がった総長君にお茶を出して、昨日あった出来事を話した。総長君は黙って最後まで聞いてくれた。

「なんだか楽しそうだな」

 最後は笑ってそう言った。話だけなのに、なんだか総長君も楽しそうだ。
 ところで、総長君は何をしにきたんだろう。いつもなら家にきて、即効私を抱き枕にして寝るのに、今日はちゃんと座って話を聞いている。ちなみに、寝ていても話は聞いてくれる。

「シグレ、とりあえずデートしよっか」

「でーと?」

「そう」

「えー、めんどい」

「ごちゃごちゃ言ってねえでさっさと準備しろ」

「…はあ、はいはい」

 強引なのはいつも。反抗してもいつかは私が折れるし、暇だからデートというやつの準備をする。
 準備といっても、服は制服かジャージかスウェットぐらいしか持っていない。とりあえず、制服を着ることにした。

「ほら、行くぞ」

 手を引かれて、わけもわからず総長君についていく。向かった先は登校時にいつも通るあの商店街。
 相変わらず胡散臭いマジシャンと、それをきゃいきゃいとはやしたてる女の人がいる。もっと他に仕事探せばいいのに。
 お昼が近いこの時間帯に、あまりこの商店街を歩いたことはない。休みというのもあるのだろう、結構な賑わいだ。
 同じ学校の生徒もちらほら。私たちに気づいては、逃げるように店に入っていく。なんだか私まで危険視されているような気がする。
 総長君はある一つの店に向かう。それは靴屋だった。

「何が欲しい?」

 そうやって私に聞いてくるけれど、なんのことかさっぱり分からない。

「一つ、欲しいもの買ってやるよ?」

 総長君が私に靴を買ってくれるらしい。なんでまた靴?

「だってお前、今履いている以外の靴、ぼろぼろで履けないだろ? だから外を出るにしてもいつも制服だし」

 まあ、確かに。いま履いているローファー以外の靴はもう履けない。といっても一足しかないのだけど。
 そうか、総長君はそれに気がついて気を使ってくれているのか。

「いや、ありがと。でも自分で買う」

「俺に買わせろよ」

 怖いです。靴ごときで後ろにちらちらと般若をちらつかせないで。
 それから私は、自分で買うことを諦めて店内を回っている。こうなったら今度から買うなんて言えないような、値段が高い靴を買ってやる。

「お前、家に結構服あるんだから、かわいい靴でも買えば?」

 何故総長君がそれを知っている! そう、ジャージやスウェット以外にもかわいらしい服や何やいろいろあるが、あれには絶対手をつけたくない。

「あれ、私のじゃないから」

 適当にはぐらかす。話がややこしくなるだけだ。

「…まあ、いいけど」

 総長君は納得していないようだ。納得しようがしまいが、あれは私の中ではないことになっている。

「あ」

 目に止まった一つの靴。それを手にとってみる。

「ん、それが欲しいのか?」

 値段を見ると、総長君をぎゃふんと言わせるような値段ではなかったけれど、私はこれが気に入ったからこれを買ってもらうことにした。私って、本当に庶民。

「これがいい」

 選んだ靴を総長君に見せると、靴を取られてレジに向かった。
 会計中の総長君をこそっとみる。さわやかな顔で財布の中からお金を取り出す。

「…」

 何あの札の量。高校生とは思えないほどのお金が財布の中に入っていた。

「どした?」

 見なかったことにする。どうせ誰かから巻き上げたのだろう、そんな気がする。
 店を出て、さりげなく荷物を持ってくれている総長君にお礼を言った。それから総長君と話し合った結果、ご飯を食べることになった。
 近くのファミレスまで、のんびりと歩く。

「いい天気だねー」

「そうだな」

 総長君とこんなふうに話すなんて思ってもいなかったけれど、悪くはないと思う。

「明日学校だ」

「だるいな」

 あんたいてもいなくても好き放題してるじゃない!

「ジンくんだ!」

 妙に甲高い女の声がして後ろを向くと、金髪ロングのお姉さんがいた。総長君は小さく舌打する。

「知り合い?」

 こっそりと聞くと、こっそりと返してくれた。

「タニカワが連れてきた女で、一回遊んだんだ。そしたら、それからしつこくて」

 それはあなたが悪いと思います。

「ジンくん!」

 金髪の女は総長君に飛びつくように抱きついて、その時私と目があった。なんとも意地の悪い顔で笑っていた。
 このとき後ろに気配を感じてはいたけれど、気づかない振りをした。だって、面白そうなんだもん。

「シグレ!」

 後ろから口を塞がれる。そんなことしなくても叫ばないよ。
 それから何故か車に乗せられて、意識があるままどこかに連れて行かれる。
 その時の総長君の顔がとても怖くて、やっぱり逃げておくべきだったなと、いまさら後悔した。




あきゅろす。
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