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22,NO

 腕の中には時雨がいる。ベッドに横たわって、腕枕をして、時雨の体を抱いている。俺はというと、時雨の首に顔をうずくめている。時雨は今にも寝てしまいそうだ。
 そんな時雨の首をべろりと舐め上げると、時雨の体がぴくりと反応する。
 これ以上ちょっかいを出さないようにしないと、俺の理性がぶっ飛びそうだ。この状況でもギリギリなのに。いや、俺が無理やりこういう状況にしたのだけれど。

「タッチャン」

「なに?」

 久しぶりの時雨の感覚に酔っていると、時雨が不思議そうに聞いてくる。

「一人で来たの?」

「…うん」

 本当は別役も連れてこようとしたのだが、忙しいと言われ断念しざるをえなかった。会いたいくせに意地ばっかりはるんだから、本当に馬鹿。

「シグレ」

「今度はなに?」

「ベツヤクに会いにいこう」

「え」

 反応からして、別役に会いたくないのだろうか。もしかして俺にも会いたくなかったのだろうか。

「嫌じゃないけど、むしろ皆には会いたいけど」

 それを聞いて俺は安心した。

「でもさ、あのベツヤクだよ?」

 言いたいことは分かるが、会って早々暴力なんて振るわないだろう、多分。

「な、なんか…襲われそう」

 それはあり得そうだ。

「俺と一緒なら大丈夫…だよ」

 これに関しては俺に自信は無い。
 そして時雨は何も答えてくれない。
 自分からチームを抜けているのに、自分から会いにくいのに気が引けるのだろう。けど、今となっては当時のナンバーズは全員チームから抜けているのだから。
 そして、問題はあの別役だ。時雨から会いに行かなければ、一生もうあえないような気がする。

「あのね、タッチャン」

 時雨は俺の顔に包むようにして両手を添える。
 時雨のその目は、あの頃と何も変わっていなくて、なんだか泣きそうになった。

「なに、やってる?」

 突然、男の声が聞こえてそちらを向くと、そこには松川がいた。怖い顔で。

「あ、マッツン」

「マツカワ、ばか」

「タッチャン、どうしたの?」

 俺は松川にそれだけ言って、時雨に背中を向けた。

「ちょっと、マッツンの所為でタッチャンが不機嫌になった」

「しらねーよ」

 後ろではそんな会話が続いている。

「マッツンの顔が怖いからだよ」

「うるせえ」

「ほら、にこやかに笑ってみなさい」

 俺たちに黙って時雨に会いに行った。
 でも、時雨に会うきっかけを作ってくれたのも事実。

「マッツン、そんなんじゃ喫茶店のアルバイトはできないよ?」

「やらねーよ」

「ほら、タッチャン。もう怖くないよ」

 時雨は俺の頭を撫でている。それを見ている松川の顔が想像できる。

「はは」

 やっぱり、俺はこういう空間が好きだ。

「何か面白いことでもあった?」

「…秘密!」

 思いっきり振り返って、時雨に抱きついた。その瞬間に松川の眉間の皺が倍増。

『なあ、笑えよ』

 そっと手を差し伸べてくれる。時雨と出会わなければ、今の俺はもちろんいない。

『籠の中から出てこいよ』

 あの時のことは決して忘れない。
 そしてこれからも。
 もう、時雨を見失ってしまわないように。




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