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21,YES

「はい、フレンチトースト」

「はーい」

 忙しい。本当になんでこんなに忙しいのだろう。
 今朝早くに、店長から電話があった。私はその電話で目が覚めた。

「もしもーし、シグレくんかな?」

「あー、どちら様で」

「ひどくない? 店長さんだよ、店長さん」

「冗談ですよ」

 自分のこと店長さんって…イタイな。

「今日、バイト来てもらえるよね?」

「はあ、まあ暇なんで」

「今日は忙しいような気がする!」

 え、それだけ?
 そんなこんなで働いています。店長の予想通り本当に忙しい。店長、一体あなたは何者ですか。

「サイトウさん、二番テーブル注文入りました」

 斎藤さんに注文リストを渡す。慣れているのだろう斎藤さんは、すばやく作業する。そして私は出されたものをテーブルに運んでいく。これの繰り返し。

「ありがとねー」

 店長はレジで忙しそうにお客と話していた。両方とても楽しそうだ。
 それからしばらくして、先ほどの忙しさが嘘のように暇になった。お客は誰一人いない。

「シグレ、今日はもうあがっていいよ」

 斎藤さんにそう言われ、あのダサいエプロンを脱ぐ。どうしてか、斎藤さんはこのエプロンがとても似合う。口に出したら怒られそうなので止めておく。

「シグレくん、シグレくん」

「はい?」

 店長に呼ばれ振り返ると、ピンクの袋を渡された。受け取った感じ、四角いものが入っているようだ。それより、なんでまたピンクなんだろう。

「新しいメニューなんだ。家に帰って食べて、感想待ってるから」

「…ありがとうございます」

 本当は今すぐにでも食べたいのだけれど。斎藤さんの手作りサンドイッチらしい。
 そして私はお礼とさよならを言って、喫茶店を出ようとする。すると新たなお客が入ってきた。
 薄い茶の髪にまだ幼さが残る、しかし整った顔。その男の子はにこりと笑って私に抱きついてくる。

「シグレ…会いたかった!」

 今ここに天使が舞い降りた。

「久しぶりだね、タッチャン」

 頭を撫でると、やわらかい髪質で気持ちいい。
 元【night】bSの高浜昴は私の体をぎゅうと抱いている。小さい子みたいだ。
 かわいい、癒される!

「な、な、な、タカハマ君!」

 しまった、店長がいることをすっかり忘れていた。

「タナカ…コウゾウ?」

 高浜は店長を怪しげに見ながら、店長のフルネームを呟く。

「ん、知り合い?」

「うん、カメラでシグレを撮ってたからボコボコにした」

 さいですか。
 そろそろここから出ないと危険だ。店長が興奮する前に

「はあはあ、ああ、ちょっと待ってくれ…しゃ、写真を」

 もう手遅れでしたか。

「じゃあ、失礼します。さようなら!」

 二回目のさよならを言って、逃げるように喫茶店から出て行く。片手には斎藤さんお手製のサンドイッチ、もう片方の手には高浜を掴んで。後ろからま、まってえ〜とか聞こえたけど、知らない。

「あ、公園」

 高浜はというと、のん気にマイペースだ。そして私の腕に自分の腕を絡めてさらにはカップル繋ぎときた。
 ときめくよね。

「今度一緒に来ようね」

「うん」

 小学生か。でもかわいいからいい!

「あのタナカって人、ボコボコにされながら『私はタナカコウゾウです、以後お見知りおきを!』って言ってた。気持ち悪かった。」

「へえ〜」

 何やってんの店長。その前にそんなのが店長でいいのか。

「シグレ」

「ん?」

「あ、あのね」

「なに?」

 高浜を見ると少し顔を赤らめている。なにこのかわいい生き物。

「どしたの?」

「えっと…」

「?」

 もしかして告白、告白ですか? わ〜、どうしようかなあ。アイキャンフライと叫びながら走ってみようか。

「…しよう」

「え、なんて」

「ちゅうしよう?」

 予想もしない言葉に鼻血が出そうだ。
 キスのことをちゅうって…いや待てよ、落ち着け自分。もしかしてちゅうとはねずみのことで、ねずみしよう、かもしれない。ねずみ、ねずみをどうするんだろう?
 そんな風に考えていると急に顎を持ち上げられる。

「…」

「えへ」

 かわいらしく笑う高浜がいて、唇にちゅうされた。
 一体この子は何を考えているんだろうか。




あきゅろす。
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