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20,ジャンプ!

「早くに目が覚めたから、早く来てみた」

 それにしたって今ですか。タイミングがいいのか悪いのか。本田は黙っているし、総長君はのん気にヘラヘラ笑っているし、居心地悪いのは私だけ?

「なあ、ハギワラ」

 総長君がここの空気が重いことに気づくころ、本田が口を開いた。

「…なんだ?」

「ハギワラはシグレが好きなんだろ?」

「うん」

「だよなー」

 何の話をしだすのかと思えば、やめて欲しい。そんでもって総長君、即答って…絶対に意味取り違えてるよね。ってか本田、急にどうした。

「ん? もしかして二人で恋話でもしてた?」

 恋話って…合ってるけど、なんか総長君が言うと違和感がある。

「まあ、シグレはありえないとして、本田は好きな人とかいるのか?」

「いねーよ」

 私はありえないってどういうことだ。ありえないけど、いないけど、合ってるけどー。
 そして本田いつからあなたは嘘つきになったの。いくら虚勢を張っても中身は乙女のくせに、ああ、また虚勢張ってるのか。かわいいなあ。

「顔、気持ち悪い」

「またろくでもないこと考えてただろ」

 気持ち悪いって本田…、それは言いすぎじゃない?
 またって何、またって。私がいつろくでもないこと考えてた?

「ひどいなー」

 本田と目が合って、なぜだかにこりと笑う本田。そういえば笑ったところを見るのは初めてかもしれない。かわいい。
 しばらく本田の笑顔に見入っていると、総長君がありえもしないことを言ってきた。

「ホンダ、まさかお前…シグレに惚れた?」

「馬鹿って、死なねーと直らないよな?」

 本田、目が怖い! あれは殺る目だ。

「大丈夫、こいつよりまし」

 総長君は私に指差しながら言う。失礼だな、総長君も私も馬鹿だから安心しなさい。

「はあ、そこがまたいんだけどな」

 本田はため息をつきながらそう言う。やっぱり乙女の本田はかわいい。
 もしかして、総長君って鈍感?
 すると本田が何かひらめいたような顔をする。

「あー、惚れたといえば惚れたかも」

 何を言い出すんだ。

「え? …そんなこと俺が許さないよ?」

 総長君、目が怖い。あれは食う目だ。本田、逃げろ!

「馬鹿が、そういう意味じゃない」

「ならいいや」

「シグレ」

「はい?」

 それまでボーっとしていた私は急に話をふられて返事をする声が裏返ってしまった。ちょっと恥ずかしい。

「チームに入れ」

 私の耳、腐ってる?

「…わんもあぷりーず」

「ウチんとこのチームに入れ、日本語通じないのか?」

 いや、わかるよ。一瞬何言われたか理解できなかったんだもん。

「暇そうだし、強いみたいだし」

 確かに暇だけど。え、本田のチームは暇人の集まり?
 このまま話を続けても本田の都合のいいようにされそうなので、話題を変えることにした。どうして私の周りには自己中というか自由奔放なやつが多いのだろうか。

「ホンチャンと総長君の出会いって何?」

 谷川の紹介というのだけは聞きたくないよ。

「出会い? 出会いも何も」

「俺たち幼馴染だぜ?」

 まじか。なんだか総長君という事実が、なんだか受け入れ難い。

「小さい頃から行く学校は一緒だったな。家が近いからだろうけど」

「ああ、そういえばそうだな」

「ハギワラは気づけば大物になってるし」

「…それはKのせいだ」

 人の所為にしてんじゃないよ。私が総長やってる時はなぜか他のチームからはKと呼ばれていた。なんでKなのかと聞くと、KINGのKらしい、どんだけ。

「…ハギワラが高校にくるなんて思わなかった」

「それはだな、こいつの所為なんだよ」

 総長君はその大きな手で私の頭を鷲掴みにする。じょじょに力が加わっているのは気のせいですか?

「お前が出て行ったあとクボヅカから電話があって『ハギワラ、学校にいきなさーい』とかわけのわからないこと言われたんだよ。何ふざけたこと言ってるのかと思って話聞いてると、なあ、シグレ?」

 総長君にまで連絡していたのか。通りであの時怒ってると思った。
 それは初耳、そして手を離しなさーい。
 本田はわけがわからないというような顔をしている。わからないだろうなぁ。

「シグレって、ここが地元だったんだな。こんなド田舎」

 田舎の何が悪い。都会は騒がしくてごちゃごちゃしていて、悪くはないいなけれど、やっぱり私はこの静かな田舎が一番似合う。いや、とっても静かだよ? ただ私の周りがうるさいだけでさ。
 というか、ここは平和すぎると言っていいほど平和。都会にいた頃は救急車の音がうるさかった。付き添いをしたこともあった。
 ガラリと扉が開く音がして、教室の中に生徒が入ってきた。私たちを見るなり固まる男の子。この男の子、とてもかわいくて谷川なんて目じゃない。ちょっと狙っていたりするかもしれない。

「お、おはよう、シグレさん」

 そしていつも挨拶をしてくれる男の子。

「おはよ」

 今日は珍しく怖い二人組がいるから挨拶してくれないかと思ったけど、してくれたからちょっとうれしい。名前知らないけど、弟になってほしい。

「シグレあれ誰? 下僕?」

 なんでそうなるんだよ。なに、総長君には下僕がいるんですか?

「総長!」

 男の子が席に着いたころ、緑の髪をした総長君の下僕…部下が入ってきた。

「なんだよ」

「ヤマシタさんが来ています」

「なんだ、また会いに来たのか」

 男に呼ばれて教室を出て行く総長君の横顔は、なんだかとても楽しそうだった。窓の外を見ると、バイクの群れがありその先頭にスキンヘッドが光っていた。
 仲悪いんじゃない?

「ほんと、昔から仲いいよなアイツら」

 私の勘違いかよ。
 それからもちらほらと生徒たちが登校してくる。静かだった学校は、時間が経つにつれて、賑やかになっていく。

「シグレ」

「なに?」

「諦めないからな」

 本田はそれだけ言って、教室から出て行った。その後姿がなんだかかっこよかった。私が惚れてしまいそうだ

「あの、シグレさん」

 それから私はあのかわいい男の子に声を掛けられて、何を話したかは内緒。




あきゅろす。
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