今日はいつもよりも早くに目が覚めた。目が覚めたのはいのだが、何もすることがなく暇。まあ、いつもの事なんだけど。
とりあえず、家でいるのもつまらないから、学校に来てみた。
「……」
やはりと言うべきか、誰もいない。
現在六時四十三分。 学校に来ても暇だ。
校舎に入ると中は薄暗く、音がない。私の足音だけが廊下に響く。
私が所属する三年D組は四階にある。一階は職員室、二階は一学年、三階は二学年、そして四階が三学年。おおまかに説明するとこんな感じだ。
階段を上って、目指すは教室。
階段を上っているとき、見えるのはスプレーやらなにやらで書かれた落書き。暇なんだね、みんな。
そしてやっと三階に着く。風が吹いている。
廊下を歩く。右にある窓ガラスは、全て割られている。左に見える教室の窓も同様で、中が丸見え。机は全て後ろに下げられているか、ばらばらに並べられているか、外に放り投げられているか。
どのみちまともな教室は一つも無い。
耳を澄ますと聞こえてくるのは、風の音と、物音。
「誰か、いる?」
その物音の正体は私の教室から聞こえている。後ろのドアから中を覗くと、薄暗い教室の中で何かが動いている。しかも、私の机の周り。
「えーと、どちらさまで?」
そう声を掛けると、動いていたものは驚いたようにこっちを見る。目が合って、しばらく動かない。
「……」
「……」
どれだけ沈黙が続いただろう、よく見るとそれは知っている顔だった。
「……ホンチャン?」
「……いや、あの」
「どしたの?」
「こ、これはちげーぞ!」
なんの話。いったい君に何が起こった。
私はどうしたのだろうと本田のほうへ歩み寄る。本田は本田であたふたしているだけで、なんだかそれがおもしろい。
本田がごそごそと何かをしていた机の中を見て、中のものを取り出す。其れを見た瞬間、ああ、犯人はお前かと、そう判断した。
「えっと、それはだな」
顔を赤くしながら言い訳を考えているだろう本田のそれは族の総長とは思えないほどかわいかった。
私の手には飴玉。それも一個や二個と言う量ではない。一袋ってあなた。
私の机の中にお菓子を入れていた犯人は本田で、その理由はわからない。
それにしたって、まさかこんなかわいい一面があるとは思っても無かった。まあ、一歩間違えればゴキブリたちの巣になっていたけどね。
谷川に馬鹿にされそうだ。
「ホンチャン」
「な、なんだよ」
「まあ、座りなよ」
私は自分の席に座って、本田にはいつも谷川が座っている椅子を勧める。本田は少し戸惑っていたが、意を決したように一つ頷いてそこに座った。
別に食べたりしないのに。
「あ、あのな」
私が言葉を発する前に、本田が何かを言う。何かを言ってはいるんだが、声が小さくて聞き取れない。かろうじて聞き取れたのは萩原という名前だけで、他は何を言いたいのかさっぱりだ。
そういえば、本田は総長君のことが好きだった。いつでも相談に乗るよとかなんとか、その場から逃げるためにそんなことを言ってしまったのを覚えている。
それにしても、だ。
「総長君のどこがそんなにいいかなー?」
「……」
総長君という名前を出しただけで顔が真っ赤になる本田。乙女だね。
「理由がなきゃ好きになっちゃいけねーのかよ」
誰もそんなことは言ってないけど、物好きだな、と思ってね。
「で、ホンチャンは何がしたいの」
「……わからねえ」
そんなこと言われても、私もわからないんだけど。
恋、なんてしたことないもん。
「好き、だけどどうしたらいいか」
「少女漫画読め」
それなら多分、私よりは参考になうと思うよ。
「……あんな過激なのはいい」
あんた何読んだの。
「……じゃあ、チームの中に彼氏がいる子に聞いてみるとか」
「副長は……ただのヤリマ」
「ストップ。なに軽々しく卑猥なこと言ってんの」
「だって、あいつは彼氏と言っても、全部セフレ」
「分かった。その話は置いておこう、ね」
なんだか話が進まない。本田は総長君のことが好きで、自分でどうしたらいいかわからないと、簡単にいえばこうだね。
うん、私にどうしろって?
「シグレはハギワラと仲がいいから」
仲、いいのかな。
「ハギワラがシグレにぞっこんなのも、知ってるから。」
どうしてそうなる。
「ホンチャン、それはさ」
「諦めるべき?」
なんか、ここが乙女の空間になりつつある。やばい、鳥肌が立ってきた。もともと、こういう手の話は苦手なのだ。
いつでも相談に乗ると言ったことをいまさら後悔し始めた自分がいて、無責任なヤツだと自分を自己嫌悪する。
そして、次に口を開く時にアイツがいて、話がややこしくなりそうな気がする。
「お、なんだ二人とも早いな」
「ハ、ハギワラ!」
なんでこんな時に限って来るのが早いんだ、あんたは。
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