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14,天体

 一番時雨と近いのはナンバーズのはずなのに、そこに萩原が入ってきた。

 ゲーセンに時雨がいると高浜から聞いて、急いでそこまで行った。途中何人かに絡まれたけど、一発殴り飛ばしたら逃げていった。ここのやつ等は肝が据わっているのに、臆病者で逃げ足が速い。まるで辻みたいだ。
 ゲーセンに入って中を捜していると松川がいて、その視線の先、時雨と萩原が楽しそうにクレーンゲームをしていた。
 松川は、時雨が盗られてしまう危機感が皆無。反対に俺は嫉妬心の塊で、時雨と仲良くするやつが嫌い。ナンバーズの中でもそれはある。やはり一番は窪塚。時雨といる時間が一番長くて、一番仲が良かった。
 俺は当時bVだった浜田を潰して、ナンバーズに入った。一番時雨といる時間が短いのは、俺なのだ。
 窪塚や森と違って、素直に時雨に甘えることが出来なかった。少し俺とはタイプが違うが、それは別役も同じ。だからこそ、俺は窪塚が嫌いだ。

「チーチャン」

 昔と同じように呼ばれて、嬉しかった。
 久しぶりに会っても、すぐにそれが時雨だと分かった。前より髪は伸びていて、顔つきも女のそれになってきていたが、笑いかたは変わっていなかった。鈍感なところも、バカなところも同じだった。

「キレーだな」

 俺の髪を見て、時雨がはそう言った。誰からも、そんなことを言われたことはない。俺を生んだ母親さえも、この色を嫌っていた。いつもいつも、悪魔の子供と罵声を浴びて、暴力も受けた。

「悪魔? お前が? 違うな、本物の悪魔はアイツだ!」

 ナンバーズで悪魔と呼ばれていた男。bU、別役楼。

「なんだって? 俺が悪魔? どの口が言ってんだ。そんなに殺されたいか?」

 さすがは悪魔と呼ばれていたるだけはある。むかつくやつ等をところかまわず殴り飛ばす、蹴り飛ばす。バイクで引きずり回したり、ビルの上うから紐で吊り下げたり、とにかく本当に怖い。他には、普通に遊園地とかのバンジージャンプで紐なしバンジーをさせられそうになったり、真冬に凍っている泉の氷をわざわざ割って、その中に入れられたこともある。風邪をひいたのは言うまでもない。
 時雨は怖い怖いと言いながらも、別役とは仲が良かった。別役は時雨に近づく者には容赦なく、それがナンバーズでも容赦ない。いつも標的にされていたのは窪塚。助ける気もなかったが。

「親からの貰い物だろ? 大事にしろよ」

 そんなことを普通に言う時雨。こんな時雨に惹かれていくのは時間の問題だった。俺がナンバーズに入った時はもうすでに、全員が惚れていたのだから。

「チーチャン?」

 一年ぶりに会った時雨は、今俺の顔を覗き込んでいる。そのまま時雨のおでこにキスを一つ。時雨は別に驚いた風でもなく、照れている風でもない。

「変わってないなあ」

 時雨は笑いながらそう言う。

「ね、シグレ」

「うん?」

「明日、遊ぼう?」

「いいけど、何するの?」

「明日のお楽しみ」

 なんだろう、と首を傾げる時雨。

「マツカワは来るなよ」

 と松川に言うが、寝ていた。
 時雨は俺たちナンバーズにとって、命よりも大事で、どうしてここまで依存してしまっているのかわからないくらい愛しい。もしも、時雨がいなくなってしまったら、考えたくもないがきっと俺たちは生きていけないだろう。今回、高浜がすぐさま時雨の生存を確認したからよかった。ああ、どこかでちゃんと生きているんだなと。

「僕、死ぬ」

 森が自殺しようとしたのを必死で止めたのを憶えている。別に人が一人死のうが構わないのだが、もしもこのことが時雨の耳に入ってしまったら、時雨も自殺しそうだ。

「一人で逝くのは寂しいだろ?」

 平然とそういうことを言えるのが時雨だ。
 時雨がここにいるのは、ここに俺たちが来たときから、もっと前からわかっていた。高浜と鬼頭の力をあわせもってすれば、人一人探すのなんて簡単だ。でも、邪魔が入った。

「やあ、久しぶりだね。とは言っても、つい先日会っているね。ごめんごめん、物忘れが酷くてね」

 緑地澄、医者だ。

「アオイに会いたい? はっ、考えてもみなよ。どうしてアオイは急に消えちゃったんだろうね? もうアンタたちと関わりたくないのかもしれないよ?」

 こいつの言うことは全て嘘のはずなのに、俺たちにそれは重くのしかかった。どうしてか、時雨に会いにいけなくなってしまった。会いたいのに、時雨のことを考えると会いにいけない。
 それから一年も経って、やっと松川が会いにいった。松川も松川で、会いに行ったことを黙っていたものだから、窪塚や村上に酷く迫られていた。

「今日からミサキって呼ぶからな!」

「飢えたやつらの中に放り出すぞ!」

 とにかく、時雨は俺たちにとって酸素であり、水であり、大地であり、地球である。大袈裟かもしれないけど、そうなのだから仕方がない。
 とりあえず今日はここに泊まろう。

「泊まるね」

「いいよ。マッツンと一緒に寝てね?」

 松川、お前帰れよ。




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