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13,レンズ

 第一印象はモジャモジャ。そして、ガリ勉っぽい。分厚いレンズの黒ブチ眼鏡をかけていて、シャツにベスト、黒のスラックス。思い切り学校帰りだ。

「お前誰だよ」

「誰だと思う?」

 モジャモジャな前髪プラス眼鏡のせいで目が見えない。それゆえ、表情がよく分からない。

「一発で当てれなかったら、シグレをもらうね」

 よく聞くとこの声、聞き覚えがある。そして、私の名前を知っているとなると限られてくる。

「あー‥‥なんかお前、会ったことあるような気がする」

 総長君は頑張って思い出そうとしている。私は分かっちゃったけどね。

「モジャモジャ君、君さ」

「ぶー、はずれ。じゃあもらうね」

 私はただ話し掛けただけなのだが。

「待て」

 モジャモジャ君に腕を引っ張られてどこかへ連れて行かれそうになるが、引っ張られている方の逆の腕を総長君に掴まれる。

「あれだ、眼鏡チクサだ」

「眼鏡はあだ名であって、名前じゃない」

「んなことは知ってる。離せよ、チクサ」

「いや」

 bV、千種吟。松川の次に現れたのは、千種。

「あ? チクサじゃねーか」

 松川がここで合流。さり気なく私に飴をくれた。

「だれ?」

 谷川が不審そうにやってきた。

「ナンバーズのbVだよ」

 私は谷川に説明する。谷川は驚いているようだ。
 とりあえず私たちは場所を移動することにした。話し合いの結果、私の家に行くことになった。千種も総長君も私の腕を離してくれる気はないらしい。

「そのクマ、何?」

 谷川が私の手に持っているクマのぬいぐるみを見ながらそう聞いてきた。

「総長君がね、部屋が殺風景だからってくれた」

「へえー」

 谷川はニヤリて笑いながら総長君の方を見る。

「本当に好きだと少年になるよね、総長」

「うっせ」

「クマ好きなんだ、総長君」

「もうお前は黙れ」

 谷川がキレ気味だ。私は黙ることにした。
 それからしばらくして家に着く。お邪魔しますもなにもなく、私より先に全員普通に中に入る。もう慣れました。

「チーチャン、ズラ外して」

「ん」

 皆が腰を落ち着かせたと同時に、千種に声をかける。千種は素直に頷き、頭に手をかける。モジャモジャが取れて、代わりに銀色の髪が見えてくる。眼鏡も外して、昔の千種に元通り。

「なに?」

 驚いている谷川に説明する。

「チーチャンはね、変装マニアなの」

「そうなんだ」

 ごめん、冗談で言ったつもりなんだけどな。

「‥‥」

 さっきから総長君の機嫌が悪い。松川は谷川と飲み始めた。

「シグレとハギワラは付き合ってる?」

「付き合ってないよ」

「そ、なら良かった」

 柔らかく笑う千種。銀の髪を持っている千種は、瞳も銀だ。私はこの色を構気に入っている。千種にとっては、コンプレックスの塊でしかないようだけど。だからいつもカツラを被っている。それから眼鏡を掛けたり、カツラの種類を色々と変えてみたり。今はモジャモジャを気に入っているようだ。

「チーチャンは何しに来たの?」

「シグレに会いたいから、来た」

 私は感動を言葉に表せなくて、代わりに千種の頭を撫でまわした。

「本当はベツヤクも来る予定だった」

 谷川以外、全員の動きが止まった。

「来ないから大丈夫だよ」

 ほっと胸を撫で下ろす。別役に会いたくないわけじゃない。でも、アイツに会うにはそれなりの覚悟が必要なのだ。歯が二、三本折れる可能性がある。正直、怖い。少林寺をしていたから、それなりに腕はたつ。
「でもね、シグレ」

「なに?」

「ベツヤクすごく怒ってるよ」

「‥‥」

「でも、すごく心配してるよ」

「‥‥ん、ごめん」

「そんな顔しないで。そんな顔させるために言ったんじゃないから」

「ん」

 千種は何を思ったのか、私の頭を撫でる。こういうところ、変わっていない。

「でね」

「うん?」

「ベツヤクにはシグレのこと黙っておくから、俺に少しだけシグレの時間を頂戴?」

 こういうところも変わっていない。

「ハギワラ」

「‥‥なんだよ」

「俺たちにとって、ハギワラが一番危ういんだ」

「だからどうした」

「そう簡単に、思い通りにはいかないから」

「‥‥っち」

 総長君は舌打ちをして、立ち上がる。本当に不機嫌で、声をかけられない。総長君は谷川を連れて、ここを出ていった。
 正直、何の話をしているかまったくわからない。たまにメンバーズの中でもこんな会話があった。その時、いつも疎外感を感じていた。今も、それはある。

「チクサ」

「なに、マツカワ」

「いや、なんでもねえ」

「マツカワはハギワラに対してもっと警戒心を持たないと。じゃないと、ハギワラのものになってしまうかもしれない」

「お前は警戒しすぎなんだよ」

 千種と松川は見つめ合う。もしかして疎外感を感じるのは、カップルだから

「シグレ、変なこと考えないでよ」

 千種が私を見ながら言ってくる。私は別に変なことじゃないと思うけどな。愛さえあれば、性別なんて関係ないと思う。

「‥‥全部声に出てんだよ」

「なんでマツカワとカップルなんだよ。死んでも絶対に嫌」

「それはこっちの台詞だ」

 でもなんだかんだ言って、メンバーズは仲が良いからな。それは今も変わってないみたい。私も、昔のまま仲良くいられるかな?




あきゅろす。
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