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12,的中

「オニイサン」

「あん?」

「金出せや」

 ただ今、総長君がかつあげ中。ゲーセンに来たのはいいのだが、誰もお金を持っていないことが判明。ということで総長君が資金集めをしている。捕まった人がものすごくかわいそうだ。さすがにあの般若には逆らえないよね。しかもここら一体シメているのは総長君だし。大抵は総長君のことを知っているはずだ。

「サンキュー」

「い、いえ」

 完全に腰が引けている。本当の本当にかわいそうだ。

「あ、あのマツカワさんですよね!」

「‥‥」

 松川を知っている人は、憧れなのだろうか恐る恐る声をかけている。声をかけた人はものすごい勇気があると思う。松川は総無視だが。

「なんで今まで来たことなかったの」

「うん? それはね」

 隣には谷川がいる。やはり楽しげに状況を見ている。

「かつあげされるのが怖かったから」

「お前が言うな!」

 怒られてしまった。というか、その手に持っているものはなんですか。

「ああ、道行く人がくれたの」

 手にはいつの間にか福沢諭吉さんが何人か握られていた。なんかこいつら怖い。

「シグレ、こっちこっち」

 総長君は手招きをしてくる。私と谷川は総長君の方へ行く。

「これやってみて」

 と指差すのはクレーンゲーム、のはず。私はボタンの前に立てる。総長君がお金を入れてくれる。私はボタンを押してみた。

「わー、動く動く」

「動かないとダメだろ」

 隣にいる谷川のことは無視。

「で、これからどうするの?」

 クレーンは一番端に行くと、止まった。

「そこに商品あるだろ? それ取るんだよ」

「このクレーンの行く先に商品なんて一つもないんですが」

「行き過ぎだ」

 それから総長君にいろいろと教えてもらった。何も取ることは出来なったけど。

「面白いな、シグレ」

「取れないけどね」

「いや、お前が面白い」

「‥‥奇々怪々な行動してる?」

「あー‥‥存在自体が奇々怪々」

 失礼な子だ。いつの間にか谷川はいなくなっているし、松川は何かのゲームで取ったのであろうお菓子を食べていた。きっと松川も誰かからかつあげをしたんだろう。あ、ちなみに私もかつあげをかをした経験はあります。

「シグレ」

「なに、ってうん?」

 総長君が何かを投げてくる。私はそれを見事にキャッチ。それはクマのぬいぐるみだった。

「お前の部屋、殺風景すぎ。それでも置いとけ」

「‥‥」

「どした?」

「ありがと」

「‥‥」

 うん、この不眠症っぽい顔が気に入った。

「な、なに?」

 総長君がすごく私を見てくる。私もこのクマみたいな顔をしていたのだろうか。奇々怪々な行動もした覚えもない。あれか、本人は気づかないってやつか。

「まいったな」

 総長君は一言そういった。

「お前ってほんと‥‥敵わねーな」

 もしかして総長君も私に負けず劣らずクレーンゲームが下手とか。いや、このクマを取っている時点でそれはない。総長君は珍しく、しどろもどろしている。総長君の身に一体何があったのだろうか。

「ハギワラさんの女かな、あれ」

 ふとそう言う声が聞こえてくる。そちらを向くと、金髪兄ちゃんと、モヒカン頭がいた。私を見ながら何かヒソヒソ話ている。本人達はヒソヒソなんだろうけど、聞こえているよ。

「まあ、上の下?」

 なにその微妙な判定。

「バカそうでもあるな」

 見た目で人を判断しないで下さい。当たっているけど。

「あっちのほうがすごいとか?」

「遊ばれてるん‥‥!」

 突然金髪が吹っ飛んだ。吹っ飛んだ原因は、総長君が殴ったから。マジギレきてる。なんで?

「俺の女だけどなんか文句あんのか? ああ?」

「お前の女になった覚えはない!」

「ちょっとは空気読めよ!」

「空気は読めないよ? 透明だからね」

「そういうことじゃない」

「じゃあ、どういうこと?」

「‥‥お前バカだ」

 本当に失礼な子。どうせバカですよーだ。バカは死なないと直らないんだよ。

「ちっ、逃げやがった」

 金髪とモヒカン頭はいつの間にか消えていた。逃げ足が早い。

「総長君」

「なんだよ」

「なんでそんなに怒ってるの?」

「え、や‥‥それは」

「うん?」

 総長君は何かを言っているが、声が小さい上に、口を手で覆っていてよく聞こえない。

「お前が‥‥」

「私?」

「‥‥悪く言われていた」

「ラブコメってるとこごめん」

 誰かが声をかけてくる。松川か谷川だと思い振り返ったが、そこに二人のどちらかがいることはなかった。代わりにいたのは、ビン底眼鏡のモジャモジャ君。




あきゅろす。
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