「オニイサン」
「あん?」
「金出せや」
ただ今、総長君がかつあげ中。ゲーセンに来たのはいいのだが、誰もお金を持っていないことが判明。ということで総長君が資金集めをしている。捕まった人がものすごくかわいそうだ。さすがにあの般若には逆らえないよね。しかもここら一体シメているのは総長君だし。大抵は総長君のことを知っているはずだ。
「サンキュー」
「い、いえ」
完全に腰が引けている。本当の本当にかわいそうだ。
「あ、あのマツカワさんですよね!」
「‥‥」
松川を知っている人は、憧れなのだろうか恐る恐る声をかけている。声をかけた人はものすごい勇気があると思う。松川は総無視だが。
「なんで今まで来たことなかったの」
「うん? それはね」
隣には谷川がいる。やはり楽しげに状況を見ている。
「かつあげされるのが怖かったから」
「お前が言うな!」
怒られてしまった。というか、その手に持っているものはなんですか。
「ああ、道行く人がくれたの」
手にはいつの間にか福沢諭吉さんが何人か握られていた。なんかこいつら怖い。
「シグレ、こっちこっち」
総長君は手招きをしてくる。私と谷川は総長君の方へ行く。
「これやってみて」
と指差すのはクレーンゲーム、のはず。私はボタンの前に立てる。総長君がお金を入れてくれる。私はボタンを押してみた。
「わー、動く動く」
「動かないとダメだろ」
隣にいる谷川のことは無視。
「で、これからどうするの?」
クレーンは一番端に行くと、止まった。
「そこに商品あるだろ? それ取るんだよ」
「このクレーンの行く先に商品なんて一つもないんですが」
「行き過ぎだ」
それから総長君にいろいろと教えてもらった。何も取ることは出来なったけど。
「面白いな、シグレ」
「取れないけどね」
「いや、お前が面白い」
「‥‥奇々怪々な行動してる?」
「あー‥‥存在自体が奇々怪々」
失礼な子だ。いつの間にか谷川はいなくなっているし、松川は何かのゲームで取ったのであろうお菓子を食べていた。きっと松川も誰かからかつあげをしたんだろう。あ、ちなみに私もかつあげをかをした経験はあります。
「シグレ」
「なに、ってうん?」
総長君が何かを投げてくる。私はそれを見事にキャッチ。それはクマのぬいぐるみだった。
「お前の部屋、殺風景すぎ。それでも置いとけ」
「‥‥」
「どした?」
「ありがと」
「‥‥」
うん、この不眠症っぽい顔が気に入った。
「な、なに?」
総長君がすごく私を見てくる。私もこのクマみたいな顔をしていたのだろうか。奇々怪々な行動もした覚えもない。あれか、本人は気づかないってやつか。
「まいったな」
総長君は一言そういった。
「お前ってほんと‥‥敵わねーな」
もしかして総長君も私に負けず劣らずクレーンゲームが下手とか。いや、このクマを取っている時点でそれはない。総長君は珍しく、しどろもどろしている。総長君の身に一体何があったのだろうか。
「ハギワラさんの女かな、あれ」
ふとそう言う声が聞こえてくる。そちらを向くと、金髪兄ちゃんと、モヒカン頭がいた。私を見ながら何かヒソヒソ話ている。本人達はヒソヒソなんだろうけど、聞こえているよ。
「まあ、上の下?」
なにその微妙な判定。
「バカそうでもあるな」
見た目で人を判断しないで下さい。当たっているけど。
「あっちのほうがすごいとか?」
「遊ばれてるん‥‥!」
突然金髪が吹っ飛んだ。吹っ飛んだ原因は、総長君が殴ったから。マジギレきてる。なんで?
「俺の女だけどなんか文句あんのか? ああ?」
「お前の女になった覚えはない!」
「ちょっとは空気読めよ!」
「空気は読めないよ? 透明だからね」
「そういうことじゃない」
「じゃあ、どういうこと?」
「‥‥お前バカだ」
本当に失礼な子。どうせバカですよーだ。バカは死なないと直らないんだよ。
「ちっ、逃げやがった」
金髪とモヒカン頭はいつの間にか消えていた。逃げ足が早い。
「総長君」
「なんだよ」
「なんでそんなに怒ってるの?」
「え、や‥‥それは」
「うん?」
総長君は何かを言っているが、声が小さい上に、口を手で覆っていてよく聞こえない。
「お前が‥‥」
「私?」
「‥‥悪く言われていた」
「ラブコメってるとこごめん」
誰かが声をかけてくる。松川か谷川だと思い振り返ったが、そこに二人のどちらかがいることはなかった。代わりにいたのは、ビン底眼鏡のモジャモジャ君。
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