「飲み比べ大会」
私の家では今、松川、総長君、谷川がいる。突撃お宅訪問とはまさにこのことで、夜の九時ぐらいに家に来るなり酒を飲み出した。そしてどういう訳か、飲み比べが始まってしまったのである。谷川はアルコールに弱いらしく、もう目が据わっていた。目をつむればそのまま寝てしまいそうだ。
「寝るなタニカワ!」
と、総長君に起こされる谷川。
「そっちで勝手にやってろ」
と、ベッドに入り込み眠りだす。いや、それ私のですけど? ってか、家主の許可なしで始めるか、普通?
「あのー」
「うん?」
「これは一体どういうことかな?」
「あー‥‥」
総長君は少し考えて
「あ、ああ! 飲み会?」
今思いついたでしょ、それ。
「まあ、飲めって」
すでに少し酔っている総長君。頬に少し赤みがかかっていて、妙に色っぽかった。
「なに、そんなに見つめて‥‥さては惚れ直した?」
いや、元から惚れてないし。
「‥‥」
まあ、総長君はいつものことだ。それにしたって、どうして松川までいるのだろうか。松川と総長君って仲良かったっけ?
「アイツがシグレに何かしないように見張ってる」
えらいえらい、と頭を撫でてやりたいが、お前も酒飲んでるじゃん。絶対に酒飲みたいだけだろ。
私は近くにあったビールを飲む。やっぱり私は日本酒派だな。周りを見渡すが、バカたちが持ち込んできた酒の中に日本酒は見当たらない。こうなったら、ビールを飲むしかないだろう。まあ、この流れもおかしいが、仕方がない。いや、ただ私も飲みたいだけなんだけどね。
「シグレは酒強いのか?」
「普通」
「普通じゃないだろう」
横から頭を叩かれる。
「一升ビン飲んでけろってしてるあたり、かなり強いだろう」
「うわ、まじで?」
「ああ」
総長君と松川が私の話題で話し始める。話の中心の私は聞くことしかできなかった。なんか、入れなかった。
「飲めるんだ、シグレ」
「俺と張ってる」
「‥‥」
「なんだ」
「マツカワ、どんまい」
「ああ? んのことだよ」
「俺が貰うし?」
「はっ、誰がやるかよ」
え、なんの話? 私から何かにぶっ飛んでいる。
「つか、他のやつ等はどうなってんだよ」
「は?」
「例えば、クボヅカとか」
それ、私も気になります。窪塚はいつも私の側にいて、甘えたれだった。そしていつも抱きついていたよね、松川に。松川のことが好きなのかと聞いた次の日から、抱きつくのをやめていたけど。よくわからない。
「あいつは‥‥ムラカミとキトウと一緒に」
「一緒に?」
「‥‥知らねーよ!」
逆ギレですか。松川、何か隠してるな。怖い顔しているくせに、嘘が吐けないというかわいい性格をしている。人は見かけによらない。ちなみに松川はかなりの甘党だ。そう言えば、鞄の中にチョコレートが入っていたはずだ。私は鞄の中をごそごそと探す。
板チョコ発見。割れていない。それを松川に渡す。
「‥‥」
「え、なに?」
「‥‥お前、食わないのに持ってたのか?」
「や、なんか学校の机の中に入ってたんだけど‥‥総長君、何か知らない?」
少し二人の顔が引き攣ったのは気のせいだろうか。
「それ、毒とか入ってないから大丈夫だよ」
眠っていたはずの谷川が後ろからそう言ってくる。
「タニカワ、ちょっと来い!」
と、総長君が谷川を近くに寄せる。そして何やらこそこそ話し始めた。一方松川は、渡したチョコレートをもう半分まで食べきっていた。どんだけ好きなんだよ。
「総長、アンタ女子高生か!」
「別にいいじゃん!」
「あー、じゃあヒント。すぐそこの商店街にあるゲーセンの商品だよ」
「溜まり場じゃねえか」
総長君と谷川が何やら騒ぎ出す。松川はというと、もう食べ終わっていた。もうないのかと、目が訴えている。鞄を漁ってみるが、ない。仕方がないので松川の頭を撫でてやった。松川は目をつむって受け入れる。なんだか犬みたいでかわいい。
「和むな!」
総長君は私を抱き締める。松川が不機嫌になる。私はいつものことなので、そのまま。谷川は面白そうに見ている。
そういえば、さっき谷川がゲーセンが何とかって言っていた気がする。
「ゲーセンか‥‥行ったことないな」
「あ?」
「は?」
「え?」
最初から松川、総長君、谷川である。三人とも信じられないという顔をしている。
「ゲ、ゲーセンに行かなくったって生きていけるし‥‥」
ぽんぽんと総長君に頭を撫でられる。そして
「今から行くか」
と、立ち上がる。他の二人も立ち上がっている。もしかして私も行くんですか。
「行くぞ、シグレ」
三人がハモった。三人が三人とも嫌そうな顔をする。
いつの間に仲良くなってるの、君たち。
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