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11,酔い

「飲み比べ大会」

 私の家では今、松川、総長君、谷川がいる。突撃お宅訪問とはまさにこのことで、夜の九時ぐらいに家に来るなり酒を飲み出した。そしてどういう訳か、飲み比べが始まってしまったのである。谷川はアルコールに弱いらしく、もう目が据わっていた。目をつむればそのまま寝てしまいそうだ。

「寝るなタニカワ!」

 と、総長君に起こされる谷川。

「そっちで勝手にやってろ」

 と、ベッドに入り込み眠りだす。いや、それ私のですけど? ってか、家主の許可なしで始めるか、普通?

「あのー」

「うん?」

「これは一体どういうことかな?」

「あー‥‥」

 総長君は少し考えて

「あ、ああ! 飲み会?」

 今思いついたでしょ、それ。

「まあ、飲めって」

 すでに少し酔っている総長君。頬に少し赤みがかかっていて、妙に色っぽかった。

「なに、そんなに見つめて‥‥さては惚れ直した?」

 いや、元から惚れてないし。

「‥‥」

 まあ、総長君はいつものことだ。それにしたって、どうして松川までいるのだろうか。松川と総長君って仲良かったっけ?

「アイツがシグレに何かしないように見張ってる」

 えらいえらい、と頭を撫でてやりたいが、お前も酒飲んでるじゃん。絶対に酒飲みたいだけだろ。
 私は近くにあったビールを飲む。やっぱり私は日本酒派だな。周りを見渡すが、バカたちが持ち込んできた酒の中に日本酒は見当たらない。こうなったら、ビールを飲むしかないだろう。まあ、この流れもおかしいが、仕方がない。いや、ただ私も飲みたいだけなんだけどね。

「シグレは酒強いのか?」

「普通」

「普通じゃないだろう」

 横から頭を叩かれる。

「一升ビン飲んでけろってしてるあたり、かなり強いだろう」

「うわ、まじで?」

「ああ」

 総長君と松川が私の話題で話し始める。話の中心の私は聞くことしかできなかった。なんか、入れなかった。

「飲めるんだ、シグレ」

「俺と張ってる」

「‥‥」

「なんだ」

「マツカワ、どんまい」

「ああ? んのことだよ」

「俺が貰うし?」

「はっ、誰がやるかよ」

 え、なんの話? 私から何かにぶっ飛んでいる。

「つか、他のやつ等はどうなってんだよ」

「は?」

「例えば、クボヅカとか」

 それ、私も気になります。窪塚はいつも私の側にいて、甘えたれだった。そしていつも抱きついていたよね、松川に。松川のことが好きなのかと聞いた次の日から、抱きつくのをやめていたけど。よくわからない。

「あいつは‥‥ムラカミとキトウと一緒に」

「一緒に?」

「‥‥知らねーよ!」

 逆ギレですか。松川、何か隠してるな。怖い顔しているくせに、嘘が吐けないというかわいい性格をしている。人は見かけによらない。ちなみに松川はかなりの甘党だ。そう言えば、鞄の中にチョコレートが入っていたはずだ。私は鞄の中をごそごそと探す。
 板チョコ発見。割れていない。それを松川に渡す。

「‥‥」

「え、なに?」

「‥‥お前、食わないのに持ってたのか?」

「や、なんか学校の机の中に入ってたんだけど‥‥総長君、何か知らない?」

 少し二人の顔が引き攣ったのは気のせいだろうか。

「それ、毒とか入ってないから大丈夫だよ」

 眠っていたはずの谷川が後ろからそう言ってくる。

「タニカワ、ちょっと来い!」

 と、総長君が谷川を近くに寄せる。そして何やらこそこそ話し始めた。一方松川は、渡したチョコレートをもう半分まで食べきっていた。どんだけ好きなんだよ。

「総長、アンタ女子高生か!」

「別にいいじゃん!」

「あー、じゃあヒント。すぐそこの商店街にあるゲーセンの商品だよ」

「溜まり場じゃねえか」

 総長君と谷川が何やら騒ぎ出す。松川はというと、もう食べ終わっていた。もうないのかと、目が訴えている。鞄を漁ってみるが、ない。仕方がないので松川の頭を撫でてやった。松川は目をつむって受け入れる。なんだか犬みたいでかわいい。

「和むな!」

 総長君は私を抱き締める。松川が不機嫌になる。私はいつものことなので、そのまま。谷川は面白そうに見ている。
 そういえば、さっき谷川がゲーセンが何とかって言っていた気がする。

「ゲーセンか‥‥行ったことないな」

「あ?」

「は?」

「え?」

 最初から松川、総長君、谷川である。三人とも信じられないという顔をしている。

「ゲ、ゲーセンに行かなくったって生きていけるし‥‥」

 ぽんぽんと総長君に頭を撫でられる。そして

「今から行くか」

 と、立ち上がる。他の二人も立ち上がっている。もしかして私も行くんですか。

「行くぞ、シグレ」

 三人がハモった。三人が三人とも嫌そうな顔をする。
 いつの間に仲良くなってるの、君たち。




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