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10,生まれる前

 光輝というのは俺の名前である。将来ビックな大人になって輝けよ、と俺の母親は言った。どんだけ光れっていうんだよ。だがその母親は、俺が五歳くらいの時に事故で死んだ。あっけねえ最後。それでも不思議と涙は流れたものだ。

「お前なんか生まれてこなければよかった」

 これが今の父親の口癖だ。俺が生まれてくる前は、どんな子供が生まれてくるのか楽しみだったろうな。母親が居なくなってからこれだ。うーん、親不孝者。

「‥‥マジでやりやがった」

 そんなことを考えている内に、時雨は全ての先輩たちを倒していた。その強さは圧倒的。うちの総長よりも強いだろう。
 こちらに来て約一年。その間、喧嘩をしたなど一度たりとも聞いたことはない。それでもこれだけつよいのは、天性の才かな。
 時雨が元総長だと聞いて、正直信じていなかった。総長はいつもヘラヘラしていて、何を考えているか分からない人だ。冗談もよく言う。
 でも今、それが冗談ではないとわかった。

「大丈夫?」

 全然心配していない顔で、俺の顔をを覗き込んでそう聞いてくる時雨。それは心なしか笑っているように見える。

「余計なことしやがって」

「借りは早く返さなくちゃ、大変な事になっちゃう」

 楽しそうに笑う時雨。きっと、昔のことでも思い出したのだろう。俺たちのことでそんな風には笑わない。
 俺の腕を掴んで起き上がらせてくれる。

「さわんな」

「うるさーい」

 俺の腕を肩に回して、立ち上がる。

「力抜くな」

 と言いつつも、軽々しく俺を引きずり歩き出す。さすがに引きずられるのは、俺にとって辛いものがある。俺は時雨がら離れようとするが、一人で立つことも出来なかった。バランスが崩れ、倒れそうになる体を、時雨がすぐさま支えてくれる。

「無理しちゃダメだって」

 お人好しだなコイツ、と思いながら俺は時雨に体を預ける。

「重っ! 体重かけてくんな!」

 そんなこと知るか。
 人と人との間を渡り歩く俺に、愛想をつかすと思っていた。でも、そんな俺を拒むことなく受け入れてくれる時雨に、いつしか母親の影を見ていた。
 そんなこと、口が裂けても言わないが。

「どこ、行ってんだよ」

「私の家」

「‥‥」

 悪ぃ、総長。




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