無事高校3年生に進学出来た私。問題を起こすこともなく無事平和に過ごしてきた。
これでも昔はよく悪さしてたよ。お巡りさんにお世話になったこともしばしば。まあ、檻の中に入れられる前に逃げたけど。
こんな私が高校に入学出来たのは奇跡かもしれない。なんて思ったけど、周りのやつらは皆、私みたいなやつ等だった。
現在進行形、教室では殴り合いが始まっている。
本命高に受からずに、仕方なくここに入ってきたような子たちは、教室の隅に机を寄せて身を寄せ合うように成り行きを見守っている。ビクビク震えているその姿は、小さな子羊のようでかわいかった。
ちょっと、私ってSかもしれない。なんて考える。ま、私も教室の窓際の、一番後ろにひっそりといるんだけど。
「なに笑ってんだ?」
類は友を呼ぶ、というのは本当らしい。私の前には髪を青く染めた、可愛らしい男の子が座っている。つまらなさそうに私を見てくる。
どうしてか、私の周りに普通の子が来ない。普通の子、というのはたわいもない話をして、笑いあって、帰りに寄り道したりする。
「昨日さ、チームのやつが抜けたいって言い出したんだよ。じゃあ、制裁ってことで病院送りにしてやった」
いやいや。楽しそうにそんな話をするなよ。
簡単に言えば、ヤンキーじゃない子ね。知らない間に私は、この青髪君に懐かれちゃったってわけよ。私は溜め息をついて外を見る。
「また殴り込みだよ」
バイクバイクバイク。運動場では壮絶なるヤンキーたちの戦いが始まっている。
「俺も行ってこようかな」
喧嘩が大好きな青髪君。
「シグレは行かねーの?」
行かねーよ。私は青髪君を見ずに、手だけをヒラヒラさせる。ちぇ、つまんねーと聞こえてくる。
まったくこの子は仕方がない。
青髪君は、チーム【moon】の副総長だったりする。この名を知らない輩は、もぐりだ。全国に名が知れ渡っているチーム。
「シグレ」
青髪君とは違う声に呼ばれる。この声結構好き。かすれた感じのハスキーボイス。関わりたくはなかったけれど。
「あ、総長!」
声の主は、【moon】の総長。教室が静まり返る。かっけーとか言うチーム団員たち。
真っ赤な髪。綺麗に整った顔。左耳には一ヶ所だけピアスがついている。一見優しそうに見えるその顔は、蓋を開けるとあら大変。
般若がいるんだよ。
私は総長君の方に顔を向ける。わー、不機嫌MAXって感じ? 後ろに般若が見える。見たくねー。
「なんで俺の女にならねぇーんだよ」
事あるごとに口説いてくる総長君。
「遠慮するよ」
それを毎回断る私。どうして私の周りには、こんなやつ等しか集まらないんだ。
悲しき性かな。
「シグレは他に男がいるとか?」
青髪君は呑気にそんなことを言ってくる。
「ないない!」
私はそれを即否定。総長君の後ろがヤバイって。まあ、付き合ってもいいんだけどね。愛がなくていいんだったら。
そういうば昔からそういうこと考えたことないな。恋愛って、なんかむずむずする。誰かに恋愛感情を抱いた事なんか一度もないんだけど。
「総長。俺が紹介した女は?」
「あ? あれは駄目だ。うるさい」
女は選り取りみどりってか。
この間、チームのアジトに強制連行されたことがある。今目の前にいる青髪君に。
幹部と他一部しか入れない所に到着。私みたいなの連れて来てもいいのかよ。
「シグレだから大丈夫!」
その根拠はどこから?
地下に繋がる階段を下りて、扉の前に到着。そこには見張り当番だろう、ピンクのモヒカン男がいた。私たちをみるなり、挙動不審。私がいるからかな、とか思ったけど違うようで。
「真っ最中かあ」
扉の向こうではギシギシアンアン。スプリンクが軋む音と、嬌声が聞こえる。青髪君にしてみればいつもの事らしく、階段に座り込んでいる。
「帰っていい?」
階段を上がろうとする私の服の裾を引っ張って、青髪君は帰してくれなかった。私は仕方がなく、青髪君の隣に腰を落ち着かせる。落ち着かない。
それから暫くして、声が止む。
「全然勃たなかった」
隣ではそんな声が聞こえてくる。無視だ、無視。
「シグレか」
扉が開いて中から出てきたのは総長君。涼しい顔して、笑ってやがる。扉が閉まると同時に、中から悲鳴のような声が聞こえてくる。何事かと固まっていると
「いい思いさせて後から地獄、みたいな?」
青髪君は楽しそうにクスクス笑いながらそう言う。
「ちょっと総長が優しくしたからって、いい気になりやがってよ、あの女は」
その天使のような顔からそんな言葉、聞きたくなかった。
話を聞くと、どうやら青髪君は女が嫌いみたい。え、じゃあ私は?
「シグレは女じゃない」
それは失礼だろうお前。そりゃ胸ないけどさ。最近気にしてんだよ、チクショー。
「大丈夫だ。小さい胸と一緒に俺の腕で抱きしめてやるから」
お前はもう黙れ。
少し腕を広げて、いつでも来いと笑顔でいる総長君は放っておいて、用件を聞く。
「何か用があるの?」
総長君は首を傾げて一言。
「何も」
そっこー帰りました。
「どうしたの、シグレ」
青髪君が覗き込んでくる。思い出したくもないことを思い出していました。なんてことは言わない。
「総長君‥‥」
「ジンって呼べよ」
「離れろ抱きつくなどっか行け」
いつもの事だ。来るなり私に抱きついては、寝る。どうやっても離れないので、もう諦めた。前にいる青髪君は、携帯で何やらお話中。
「海に沈めるぞ」
聞こえない聞こえない。
私はまた、外を見る。いつも通りの光景。見慣れなくなかった光景。
平穏な日常来い、とか願っていたりする。
どうせ無理だろうけど。
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