ユリリタ
くだらない。くだらないくだらないくだらないくだらない。
なんで世界にはこんな行事があるのか。
『バレンタイン』
そう、それは。
女性が好きな男性にチョコを作り、そのチョコと一緒に想いを伝える特別な日。
店は女性でにぎわっていた。チョコはすごい勢いで無くなっていく。
あたしは横目で見てその場を立ち去った。
馬鹿馬鹿しい。くだらない。
そう思ってたのに。
なのに、なんで自分の目の前にチョコがあるんだろう。
綺麗にラッピングされていて可愛らしいピンクのリボンがついていた。
買った覚えはない。と心中で思ったが、どうやら自分で買ったらしい。
床に落ちてた紙きれを拾い、見てみるとそれはレシートだった。そのレシートにはこのチョコの名前がしっかりと記されていた。
嗚呼、無意識に買ってたんだなと後悔と恥じらいを感じた。
「…それにしても」
このチョコをどうしよう。
買った物は責任を持って処分しなければいけない。
「…食べるか」
包装紙に手をかけようとしたとき、
「リター、…って何それ。もしかして俺に?」
腰より少し上まである髪をさらさらと揺らしてあたしの元に来るユーリ。
どうしてこの男はこんなにもタイミングが良いのか。
「あ、あんたのじゃないっ、これはあたしの!」
「てっきりリタが俺のために買ったのかと」
「自意識過剰もいい加減にして」
「…相変わらず冷てーな」
苦笑するユーリを見ていたら顔が熱くなった。いつもはこんなことなかったのに。
それに、この胸のドキドキはなんだろう。
「…やっぱあげる」
「え?いや、いいよ。リタが食いたくて買ったんだろ?」
「あんた見てたらどうでもよくなった」
「…リタさん、普通に傷付くよ、それ」
「いーから貰いなさい!」と無理矢理ユーリの手にチョコを置いた。
ほんとはきっと、こうしたかったんだと思う。でも、あたしは素直じゃないから。
「サンキュー」
ぽすっと頭に手を置いてあたしの頭を撫でる。いつもより気持ち良いと思うのは、今日が特別な日だから?
「じゃ、あたし本読むから出てって」
「うめー!」
「…あんた、話し聞いてる?」
「リタも食ってみろよ」
「えっ――」
突然唇が触れた。触れたのと同時にユーリの舌があたしの口の中に潜入して少しだけ甘いチョコの味が広がる。
「ん、…はぁ、」
「美味かったろ?」
唇が離れた後は必ず余裕な笑みを浮かべるから腹がたつ。
あたしはあれだけでも余裕がないのに。
「あ、あんなことされたら味なんか解るわけないでしょっ!!」
「チョコが足りないのか。じゃあ今度はもっとたくさん…」
また唇が触れた。今度はちゃんと、口いっぱいに。
「今度はちゃんと味しただろ?」
「………」
あたしは俯いたまま、顔を上げなかった。
…いや、正確には上げれなかった。
だって、こんな真っ赤な顔なんて見られたくない。
「リター?」
「…あんた、ぶっ飛ばされたいの?」
「そんなに嬉しかった?」
「話しを聞け!」
あははと笑いながらあたしの髪をくしゃくしゃと乱暴に撫でる。
どうしてだろう。なんでこんな行為にも胸がドキッとするのだろう。
それは共に旅をしてるから?
今日が特別な日だから?
「来年は手作りを期待してます」
「…勝手に期待してなさい」
「来年も義理だったら今年よりもっとすごいことするから」
「……来年、期待してなさいよ」
一瞬寒けがしたのは気のせいじゃないと思う。ユーリの言うことはたいてい本気だから、そんな宣告されたら作るしかない。
「……で、」
「は?」
「チョコと一緒に、伝えるものあるよな」
「…っ……!」
「ゆっくりでいいから」
「………す……き…、」
あたしにこんなこと言わせるなんて…!
ほんとにぶっ飛ばしたい。
「俺もリタが好きだ」
満足げに笑うユーリの顔に、もうくぎづけになってしまい顔を逸らすことなんて出来ない。
そんなあたしを見てユーリは男の本心なのか普通に言ってくる。
「…今度はリタを食べていい?」
「ダメ」
「…冗談だよ。多分」
言葉では言えないけど、心にある想いはすごく大きいの。
だから、あたしがちゃんと言えるまで待ってなさいよ。
いつか絶対に、伝えるから。
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