『………』 しん、と静まるその場。 猫芽は何か考える様にりんを見つめた。 『……よし、来いりん。いい所に連れてってやるよ』 「え?」 戸惑うりんを余所に猫芽は化け猫になり、りんを背中に乗せた。 そしてしっかり掴まっとく様にとりんを振り返り、空へと飛び立ってしまった。 「なっ猫芽!!どこへ行く!!……ってもう行っちゃった…。はぁ…殺生丸様、よいのですか?」 「……好きにさせればよい」 「好きにって……(あー何かようわからなくなってきたわい…。まぁ“可愛い子には旅をさせよ”と言うし………って殺生丸様がまさかそんな事思ってる訳あるまい!!…いや、でももしかして……いやいやまさか…)」 ――忍猫族(すいねこぞく)。 とは、猫芽が属する一族だ。今は犬夜叉の父と竜骨精の戦いにおいて、猫芽以外の一族は死滅してしまっている。 もともと忍猫族は、その名の通り忍の一族で、頼まれれば何でもやる一族であった。頭領は猫芽の母である。 だが、遠い昔、犬夜叉の父と“盟約”を交わし犬夜叉の父に仕える様になったのだった。 「――わあ…!」 猫芽から降り、その場を見たりんは感動の声をあげた。 猫芽は人間の姿に戻ると、その場を見下ろした。 『…ここはあたしの住んでた村だよ』 「え?猫芽様の?」 『そ。今はだーれも住んでないけどね。だから、家もそのままに花畑にしちゃった』 二人の眼下に広がるのは、色とりどりの見事な花畑だった。 『ここはあたししか知らない。殺生丸も邪見もだ。りんは特別』 その言葉にりんは目を輝かせた。 『…あたしも家族が死んだ。だけど妖怪なんて無駄に生きなきゃいけない。だったら楽しく生きなきゃ勿体ないだろ?』 「…うん」 『まあこれはある人が言ってたんだけどね』 「ある人?」 『これは内緒だ』 歯を見せ笑った猫芽。りんは首を傾げながらも、再び花畑を目に映した。 「また連れてってくれる?」 『もちろん』 「じゃあ指切り!」 『指切り?』 小指を立てにっこり笑うりんに習い、不思議そうにしながらしゃがんで小指を立てた。 「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます」 『針千本!?(それ一種の脅迫じゃないか…?)』 冷や汗を流しながらも猫芽は、りんと仲を深めたのだった。 第十話 《家族を失った少女達》 前 [戻る] |