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第四話‐弐




――夜も更けた頃、小さな呻き声が聞こえ殺生丸は目を開いた。


声の方に目を向けると猫芽が冷や汗をかき、苦悶の表情を浮かべながら寝ていた。


「(……傷が痛むのか…)」


殺生丸はふと、自分と犬夜叉の間に飛び込んできた猫芽を思い出した。




猫芽の一族は大妖怪である父に仕えていた。
だが先の戦いで父を庇い、一族もろとも滅んでしまった。
自分に付いていた猫芽は難を逃れた。
そのせいか元々犬嫌いの猫芽は更に嫌いになった。
だがその嫌いな自分を庇ったとなれば――


「(…一族の本能か……)」


猫妖怪とは元来、気ままで我が儘で自己中心的な妖怪だが、猫芽の一族は一度忠誠を誓った者には命の限り忠義を尽くす事で有名だった。
猫芽は気ままではあるが決して自分を裏切らない。




「(……私には必要の無い忠義だ…………だが何故父上は私にあ奴を…?犬夜叉ではなくこの私に……)」


いくら忠義を尽くそうと必要が無くなれば切り捨てる。
邪見も、そして猫芽も―――





――翌朝。


猫芽の傷はまだ治ってはいないが先日よりは良くなり、痛みも引いていた。


『………あ、あのさ…』

「…なんだ」


猫芽は殺生丸のいる木の根元にいた。顔は俯いている。


『…えっと……(あ〜も〜お礼言うくらい何ためらってんのさ!“ありがとう”ってスラッと言えば済むじゃない!確かに殺生丸にお礼とか癪だけど……ってほら、あたしだって邪見にお礼せがんでたじゃん!)』

「………」


猫芽はとうとう頭を抱えだした。


『〜〜〜〜っ(昨日はサラっと言えそうだったのに〜!!)』

「………」


猫芽は頭を上げくるっと回り二、三歩歩くとしゃがみ枝で地面に何か書いた後すぐ、その場から去って行った。

殺生丸は暫く猫芽の去った方を見ていたが、木から降りその地面を見下ろした。







“ありがと”





「………………」


殺生丸もまた、その場から去って行った。




第四話
《いけ好かない奴》



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あきゅろす。
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