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第十七話‐参
「あいつ…!仲間の命を奪って蘇りやがった」


剣を交えていた犬夜叉と殺生丸だったが、お互いに手を止め完全復活を遂げたお館様を見上げた。そのお館様はギロリと二人を見下ろした。


「犬の大将の息子共よ…貴様らの命も吸い尽くしてくれようぞ…!!」


一方冬嵐は変わり果てた妹達の前でわなわなと震えそれぞれの名を呼ぶ。傍では猫芽が化け猫から人型へと戻ったところで、それに気付いた冬嵐はキッと彼女を睨み付け掴みかかった。


「どうしてあたしだけ助けた!! 答えろ!」
「…契約者はあんただけだ」


無機質な声音で発せられた一言に冬嵐は崩れ落ちる様に膝をついた。まさかここに来てお館様に裏切られるとは思いもしなかった。
現状を受け止められない冬嵐をよそにお館様と犬夜叉達の闘いが始まった。二人は確実に剣を叩き込んでいるが、全く効いていない様だった。


「流石は親父と戦っただけの事はあるじゃねェか。ハッ!だがおれにはなァ、」
「調子に乗るでない犬夜叉!お前が倒した竜骨精と一緒にするな!奴は今、四魂のかけらを持っているのだぞ!」


お館様は反撃とばかりに、爪を飛ばしたり電撃を繰り出したりと一気に攻撃を仕掛けてきた。その攻撃を受け流し、飛躍して剣を振りかぶった殺生丸だったが弾き飛ばされてしまった。
空中で身を翻し着地した殺生丸はふと視線を感じ見ると、猫芽が虚空の眼差しでこちらをじっと見ていた。

その様はまるで、


『こんな奴も倒せないのかよ。へっ、だっせーの』


と言われているようで。
普段だったらそんな嫌味の一つや二つ受け流すものの今は状況が状況だ。非常に苛立つ(実際には言われてない)。
片足を付いて動かない殺生丸を心配して駆け寄った邪見は、主の表情が怒りに歪んでいるのに気付いた。


「殺生丸様…?」
「くっ……おのれ…!!」


目を赤くさせると立ち上がり剣を仕舞う。どうやら妖犬に化けるつもりらしい。だがその時、大きな脈動が殺生丸の動きを止めた。天生牙だ。


「…抜けというのか」


静かに見上げる先にはお館様と犬夜叉が闘っているところで、丁度犬夜叉が地面に叩きつけられていた。完全に犬夜叉に目がいっている隙をつき、殺生丸は天生牙を抜いた。息もつかせぬ内に斬ると殺生丸は静かに剣を納めた。


「何だその刀は。効かぬな、とんだなまくらだーーぐっ!!」


高笑いしていたお館様だったが体から無数の光が飛び出し、膝をついた。姿も元の骸姿に戻っていく。


「後は貴様と鉄砕牙の仕事だ」


そう言い残した殺生丸は犬夜叉達に背を向けた。唖然としていた犬夜叉だったが気を取り直して鉄砕牙を構えた。力を失ってしまえば倒すのは容易い事だ。
風の傷で斬り伏せ、しっかりと奪われた四魂のかけらも取り戻した。


「こいつは返してもらうぜー!」


ぐっと悔しげに歪まれた表情の冬嵐に殺生丸は近づく。


「返して貰おうか」
「くっ…!」


冬嵐は更に顔を歪める。悔しいが負けを認めざるを得ない。妹達もやられ惨敗も惨敗だ。


「…チッ!こっちももう必要なくなった!殺生丸んとこ帰んな!猫芽」


半ば悔し紛れに猫芽の背中を押すとその勢いで殺生丸の胸の中にポスッと埋もれた。
殺生丸は静かに見下ろす。猫芽はそのままピクリとも動かない。どうやら気絶しているようだった。


「…………」


殺生丸は無言で猫芽を担ぎ颯爽とこの場を後にしたのだった。
暫くその背中を睨んでいた冬嵐だったが、小さく聞こえたうめき声にハッと振り返った。見れば妹達が目を開けているではないか。

確かにあの時やられていた筈だと首を傾げる四人の前に邪見が現れ、これも殺生丸が天生牙で蘇らせたお陰だとくどくどしく説明しだした。


「殺生丸…あいつ!」
「これ!お礼くらい言わんか!ねぇ殺生丸様…って殺生丸様!? 置いてかないでー!!」




ーー無事りんの元へと戻ってきた殺生丸達は、とりあえず猫芽の目が覚めるまで河のほとりで足を留める事にした。
りんはというと、三人揃って帰ってきた事に喜こぶや否や猫芽の傷だらけの様子を見て飛び上がり、今はせっせと河で水汲みをし猫芽の顔を拭ってやったりと忙しい。

忙しない奴だ、と殺生丸は我関せずの状態で近くの木の根元に寄りかかり座っていた。



「ーーあ!猫芽様が動いた!」
「何じゃと!?」


りんの声に反応した邪見は急ぎ駆け付ける。二人は緊張した面持ちで猫芽を見守っていると、むくりと起き上がった。そして暫くぼうっとしていたと思いきや、大口を開けて欠伸をし気持ち良さそうに背伸びまでし始めたではないか。


「あー、よく寝た」


そう清々しく言い放つともう一度欠伸をした猫芽は、ぽかんと自分を見つめる邪見とりんに気付いた。


「あれ?どしたの二人共」
「どうしたもこうしたもないわい!! 呑気にも程があるぞ!」
「猫芽様…大丈夫?」
「へっ?なんで?」


邪見とりんは顔を見合わせた。すっかり元気な様子の猫芽はまるで何も覚えてない様な振る舞いだった。その事を戸惑いがちに尋ねてみると、


「へ?ああ覚えてるよ。途中からまぁ何とかなるかなーって思って意識飛ばしてたけど」


ガクッと邪見は体制を崩した。猫芽は変わらず能天気に笑っている。りんはそんな様子を見て無邪気に笑うとおかえり!と元気よく言った。
が、すぐにその表情が固まった。項垂れていた邪見も顔を上げ遅れて同様になる。
猫芽は首を傾げ、自分を見上げて固まる二人を見る。そこで、二人の視線が正しくは自分を通り越している事に気付き、まさかと勘付いて猫芽はサァッと顔を青くした。




「ーー意識を、飛ばしていた、だと…?」


無駄に区切られた単語一つ一つに怒りが感じられた気がした。猫芽はギギギ、と音が鳴りそうなくらいにぎこちなく背後を振り向いた。
そこにはやはりというか、無表情で猫芽を見下ろす殺生丸が立っていた。


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