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第十七話‐弐
そうこうしている内に、かごめが捕らわれた人間達を引き連れ逃げようとしていた。冬嵐はせっかくの生け贄を逃してたまるかと、猫達に立ちふさがらせた。


「だ、駄目だ…!! 逃げられない!」


あっさりと立ち止まる人々の前に躍り出たのはかごめだった。うなり声を上げる猫達に物怖じせず、妖怪を睨み付けた。


「何よあんた達、あたし達は大事な生け贄なんでしょ。殺しちゃったら駄目なんでしょ!さあ!どいて!」


かごめの勢いにたじたじな猫達を掻き分けずんずん進んでいく。その様子を見た妖狼族の三人はかごめに感心し、彼女を守る為に猫達を蹴散らしていく。
犬夜叉は、まだ完全に力を取り戻していないお館様を相手に戦っていた。といっても、お館様はよろよろと動くだけで、犬夜叉に一方的にやられていた。


「さっさと四魂のかけらを返して貰おうか!」


頭に鉄砕牙を叩き込まれ、弱々しい声を上げるお館様。
かごめらと人間達は全員逃げ、猫達も妖狼族にやられ、城の敷地内には犬夜叉、殺生丸、邪見、豹猫四兄弟、お館様、そして猫芽しかいなかった。


「お館様!!――っ何をしてる猫芽!お館様を守るんだよ!」


焦った様に主の名を呼ぶ冬嵐は、半ばヒステリックに猫芽に声を張り上げた。
一度視線をそちらに向けた猫芽は化け猫の姿になると、犬夜叉に攻撃を仕掛けた。突然現れた猫芽に瞠目すると、犬夜叉は攻撃を避ける為いったんそこから離れた。


「てめぇ何のつもりだ!」


何の事情も知らない犬夜叉は苛立ちを隠す事なく殺生丸の方に向く。そんなに俺の邪魔がしたいのかと殺生丸に怒鳴りつけた。その間にも猫芽の攻撃は止まず、犬夜叉は舌を打った。


「おい犬夜叉!! 猫芽を傷つけるな!!」
「はぁ!? じゃあこいつをどうにかしろ!!」


邪見は犬夜叉が猫芽の体を傷つけたのを見、耐えられず声を上げた。殺生丸の眉が(ほんの僅かだが)ピクリと動いたのが見えたからだ。


「猫芽は今豹猫族共に操られておる!だからわしらの声は聞こえないんじゃ!!」
「そんなの俺の知ったこっちゃねーよ!!」


何とか説得しようと邪見は身振り手振りで説明するも、犬夜叉は邪魔をされているのが相当頭にきたらしい。いつまでも退かない猫芽に業を煮やして、鉄砕牙を振り上げた。


「“風の傷"!!」


その斬撃がうなり声を上げて一直線に猫芽に襲い掛かった。まともに食らってしまった猫芽は吹き飛び、そして地面にどさりと落ちた。


「これで静かになったな」
「…あーあ、やっちゃった」


化け猫が静かに横たわる様を見て、犬夜叉はすっきりとした表情を見せた。対して邪見は冷や汗をダラダラと流しながら青ざめる。背後の殺生丸の表情は伺えないが、ピリピリとした不穏な空気がひしひしと感じ取れたからだ。まさか死んではいないだろうが、猫芽の心配よりも、殺生丸の機嫌の方が気になった。これは完全にとばっちりを食らう、と邪見はげんなりした。


「猫芽!?――……あの役立たずが…!!」


猫芽が倒れたのを見て、冬嵐は忌々しげに奥歯を噛み締めた。
その後再開された犬夜叉の応酬によって、お館様は倒れ込んでしまった。


「…我に血を……魂を…!」
「どうか、今暫くお待ち下さい!憎き仇の子らの首、只今お館様の前に捧げて見せましょう!」


冬嵐はキッと犬夜叉を睨むと柄に手をかけた。まずはお前からだ、と抜いた刃の切っ先を向ける。犬夜叉は不敵に鼻で笑うが、四兄弟の連携攻撃にあっさりと動きを封じられてしまった。
その隙をついて、邪見はこっそりと猫芽に近寄った。


「猫芽!おい頼むから死ぬんじゃないぞ!誰が殺生丸様に怒られると思っておるのじゃ!!」


一方殺生丸は、おくびにも出さないがかなり苛ついていた。豹猫族は殺生丸よりも犬夜叉に目が向いているし、犬夜叉は犬夜叉で関係もなく弱い癖にこの戦から退こうとしない。その上猫芽までもが、こんな雑魚に捕まり豹猫族の言いなりになっている。

豹猫四兄弟(と犬夜叉)に一撃を食らわせた殺生丸の行動は、八つ当たりに近かった。


「ってめ何しやがんだ!」
「寝ていろ、犬夜叉。こ奴らは私の獲物だ」
「そうはいかねぇよ。てめぇこそ引っ込んでろ!」
「くどい!!」


彼にしては珍しく声を荒げ、犬夜叉に刀を振り下ろした。そこから兄弟喧嘩が始まり、それに気付いた邪見は項垂れた。四兄弟でさえ唖然としている。あいつらこんな時に何やってんだ、と。
激しく鍔迫り合いをする二人の背後では、お館様がうなり声を上げていた。


「向こうがバラバラで来るというならあたしらは力を合わせるんだ」


兄弟の力というのを見せ付けてやろう、と意気揚々とした冬嵐の声に頷く妹達。それぞれが力を高めた所で、お館様の目が光った。


「…我に命を…」
「お館様!すぐにあいつらの命を捧げて見せましょう!」
「魂を…!!」


すると、今まで物言わず横たわっていた猫芽がむくりと起き上がり、驚いている邪見を余所に冬嵐の元に一目散に走っていった。

四兄弟の、その満ち溢れる力に魅せられたお館様はその鋭い爪を振りかぶった。その爪が冬嵐に届く前に、猫芽は彼女だけを咥えてそこから離れた。
冬嵐の危険を察知し、彼女を守ったのだ。


「――夏嵐!!」


何が何だか分からぬまま、目の前で妹達がお館様によって深手を負わされてしまった。妹達はそれぞれ力をお館様に吸い取られていく。
冬嵐は信じられない様子でそれを呆然と眺めていることしか出来なかった。


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