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第十七話‐壱
「ふふふ。さぁて、役者も揃ってきた。お呼びじゃないオマケもいる様だけど」


城の周りに集まる殺生丸と犬夜叉を見て楽しそうに笑みを零す冬嵐。その隣に佇む猫芽。二人が木の上から見下ろす先には春嵐が犬夜叉と、夏嵐が殺生丸と、そしておまけである妖狼族とは秋嵐が相手をしていた。


「お前の出番ももう少しだよ、猫芽」
「………」


無表情で佇む猫芽の視線の先には、殺生丸がいた。



「猫芽様ー!」
「おい猫芽!」


「………猫芽」




ぼんやりとした意識の中で、猫芽はこれまでの旅路を思い出していた。
最初は嫌々だった旅も、いつの間にか当たり前の生活になっていた。最近はりんという少女が加わってから、それなりの楽しさも味わえる様にもなった。


「(……いつ死んでもいいなんて……いつからそう思わなくなったんだっけ…)」


夏嵐の助太刀に向かった冬嵐の気配を感じながら猫芽は、身体はしっかりしているのに意識だけが遠退いていくのがわかった。



――豹猫族の総大将――皆が“お館様"と呼ぶ大妖怪の生け贄の準備が整った。それまで時間稼ぎをしていた豹猫四天王も揃ってその骸の前に跪き、後ろにも小妖怪が同じ様にしている。
その生け贄となるここの農民達とかごめ、弥勒、珊瑚ら人間が、骸の傍に結界によって閉じ込められていた。猫芽も結界の傍に控えていた。


「いよいよ時が来ました、お館様。まもなくです」


冬嵐が待ちきれない様子で告げる。お館様に捧げるものには、かごめから奪った四魂のかけらが台座に供えてあった。


「まもなく月が中点に来ます。いよいよ憎き犬一族を血祭りに上げ、我ら豹猫一族がこの地を治める時」


その感情の高ぶりが、彼女の声音からわかる。月はもう、中点に差し掛かっていた。
そこに悠然と現れたのは殺生丸であった。彼はお館様の骸を見上げると、すぐさま斬り掛かる。だがそこにも結界が張り巡らせてあり、殺生丸は弾き返された。


「(結界か…)」


不機嫌そうに眉が寄せられる。
殺生丸の登場に、豹猫族は一様にしてそちらに顔を向けた。冬嵐は不敵に笑むと、もうすぐお館様が蘇るから覚悟しておけ、と声高らかに言った。


四魂のかけらが一層光を放った時、地を這う様な呻き声が響き渡った。一族が今か今かと目を見張る中、お館様は四魂のかけらを台座ごと掴むと、一気に口の中に入れた。


「おぉ、お館様が…」


ついに動き始めたお館様に秋嵐が喜びの声を上げた。


「――我に血を…肉を…魂を捧げよ」


うなり声にも似た声でそう言うとかごめ達を覆っていた結界が割れた。今まで視界を覆っていたものがなくなり、人間達の目の前には恐ろしい姿の骸が現れる。恐怖に皆顔を強張せていた。


「これは…!」
「猫共がいるよ」
「何なの…!? ここ…」


かごめ達三人が険しい顔付きで周りを見渡す。すると、かごめの名を呼ぶ声が聞こえ、見ると妖狼族の若頭――鋼牙であった。
彼はその四魂のかけらが仕込まれた足で結界に勢い良く飛び蹴りを食らわすが、殺生丸同様弾き返されてしまった。


「くそっ!何だ!?」
「はははは!お館様の結界が、お前達に破れるものか」
「そこで生け贄達が食われる様を見てなさい」


春嵐が挑発的にそう言うと鋼牙はくっ!と顔を歪めた。


――とうとう人間達に手を伸ばし始めたお館様。農民達は為す術もなく、身を縮こませる。弥勒が風穴を食らわせようと数珠を解くが、一睨みしたお館様が彼を昏睡状態に陥らせてしまった。
何か手立てはないかと周りを見渡したかごめは、傍に猫芽がいることに気付いた。


「猫芽ちゃんお願い!助けて!」
「………」
「聞こえてるんでしょ!? 猫芽ちゃんってば!!」


必死に呼び掛けるが、猫芽はこちらに見向きもしない。
目前と迫ったお館様の手にかごめは息を呑んだ。



「――かごめーー!!」


刀身が赤くなった鉄砕牙を振り上げやって来た犬夜叉によって、結界は破られ、どうにかかごめ達は助かったのだ。それを見ていた殺生丸は、見たこともない鉄砕牙の色に驚いた。


「はっ、待たせたな」


刀を担ぎ、不敵に鼻で笑った犬夜叉。四兄弟はお館様の結界を破った事が信じられない様子であった。


「殺生丸様、殺生丸様ー!探しましたぞ殺生丸様」


今まで犬夜叉といた邪見はすぐさま殺生丸に駆け寄る。
犬夜叉が新たに力を付けていた事に驚いたと犬夜叉を見ながら言った邪見は、聞いているんだか聞いていないんだかわからない殺生丸を見上げ、戸惑いがちに主の名を呼んだ。


「……なんだ」
「そのー、実は先程猫芽と会いまして…」
「ほう?」
「あ奴は、恐れ多くも殺生丸様に、その、“助けて欲しい"と…」


邪見はそう言いながら、そんな事一言も言ってない!と牙を剥き出す猫芽が安易に想像できて、少し笑ってしまった。


「何が可笑しい」
「い、いえ!別に何も…」


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あきゅろす。
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