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第十六話‐弐


「――(父上が昔戦った…豹猫族か…)」


今から五十年前、復讐を誓った豹猫族が再び攻めてきた。それに立ち向かったのが殺生丸だった。
殺生丸は荒れ地に立ち豹猫族を待ち構えながら、やや斜め後ろに並び立つ猫芽を横目で見やった。彼女も同じく地平線の彼方を見つめ、待ち構えている。いつもなら、疲れるだの面倒だの五月蝿い猫芽がいつもに増して静かだ。
その険しい表情から、猫芽も何か豹猫族とあるのだろう。

すると、背後に多くの気配を感じ、殺生丸は振り向いた。


「殺生丸殿!我ら一同お味方に参上した」
「何の用だ、貴様ら」


現れたのは多くの妖怪達。彼らはかつての豹猫族との戦いで殺生丸の父に世話になったらしく、今度は殺生丸の味方に来たと言う。
妖怪達はこれから来る戦に意気揚々と構えていた。


「殺生丸殿、正面は我らに任せておけ。懲りぬ猫共に制裁を加えてやる!」――





「――へぇ、そんな事が昔あったのね…。で、結局どうなったの?」
「豹猫族が逃げて終わり。だけど殺生丸に付いた妖怪共は大分やられたけどな」
「ふーん。その時犬夜叉は一緒に戦わなかったの?」


かごめが素朴な疑問を言えば、猫芽に無言で見つめられた。そして更に、溜め息をつかれる。かごめは首を傾げた。


「犬夜叉はなあ―――」





――「殺生丸様ぁー!! ゆ由々しき事態でございます!」
「何だ」
「この邪見、勝手ながら犬夜叉めを呼びに言って参りました。奴も半妖ながら父君のお身内ですので」
「それで?奴はどうした。姿を見せぬのは臆したからか?それともこの兄に、力は貸さぬとでも言ったか?」
「それが犬夜叉め封印されておりました」
「何だと?」


邪見の言葉に殺生丸は僅かに目を見開く。邪見は言い淀みながらも、訳を話し出す。どうやら人間の巫女に心を奪われ、隙を突かれたらしい。
それを聞き、猫芽は呆れたように目を回した。


「……愚か者が」
「はい馬鹿です」
「馬鹿だな」――





「――……ああ…」


思い当たる節があるのか、かごめは曖昧に頷いた。


「それで殺生丸は怒ってるだろうなと思ってな。でもまあ、凝りもせずまた心奪われてるみたいだけどな」
「あ、あはははは、やだ猫芽ちゃんたら何言ってるのよ」


意味深にニヤリと笑われかごめは少し赤くなりながら笑ってごまかした。かごめは話題を変えようと、先程うやむやになった疑問を再び口にした。


「じゃあ猫芽ちゃんは何で捕まってるの?」


それに対して猫芽は、聞かれたくなかったのか黙り込んでしまった。だがかごめの視線がそれを許さず、じっと猫芽を見つめている。やがて根負けしたのか、渋々口を開いた。


「…“契約"させられちゃったんだよ」
「“契約"?」
「詳しいことは言えないけどな。簡単に言うと、あいつらの手下にさせられちまったんだよ。あたしら忍猫族は元々雇われ妖怪なんだ。忠義を誓う代わりに食いもんなんかを見返りに求める。ま、持ちつ持たれつってな」
「じゃあ殺生丸に付いてるのもそれで?」
「まあね。あたしらは一度忠義を誓った奴には死んでもそれを守り通す。その過程で“契約"をするか否かはそいつ次第。別にしなくてもいいって訳。あたしも殺生丸と“契約"してないし」
「しなくてもいいって、それって大丈夫なの?忠義を尽くすならした方が良さそうな感じなんだけど」
「別に“契約"しなくても忠義は尽くすさ。“契約"は、そいつが本当に忠義を尽くす人物に値するかどうかを見極めてする。“契約"ってのはそれくらいあたしらにとって死活問題なのさ」
「…“契約"したらどうなるの?」
「そりゃ相手次第だな。ただ単に忠義の形でしかない“契約"、自分の思い通りにする為の“契約"。確実な事は、あたしは豹猫族の操り人形になっちまったって事だな」
「ええ!? それって結構やばいんじゃ……」


かごめの言葉に再度うなだれた猫芽は重い溜め息を吐く。猫芽のその重い雰囲気で、彼女の状況が十分理解できたかごめだが、それにしては猫芽がそこまで焦っていないように見えた。


「それにしては猫芽ちゃん、随分余裕ありそうだけど」
「そう見えるか?」
「ええ。あ、そっか。殺生丸が助けに来てくれるもんね、それじゃあ安心ね」
「ばっ!べ、別に!殺生丸が何とかしてくれるとか!期待してる訳じゃないんだぞ!! これっぽっちもな!」
「(……期待してるんだ)」
「――それにあいつは……鉄砕牙と親父の事しか頭にないからあたしの事なんて…」


寂しそうに伏せられた目線に、おや?とかごめは思った。そうか、彼女は殺生丸の事を――。


「猫芽ちゃん、きっと大丈夫よ!“契約"の事だってどうにかなるわ!絶対!」
「……そうだといいけどな。“契約"を破棄する方法はあるし」


片膝を立てそこに腕を置いた猫芽は壁にもたれ天井を見つめる。まさかこの自分が、捕らわれの身になるなんて思いもよらなかった。


「……あのさ、猫芽ちゃん。どうしてあたしなんかに色々教えてくれたの?ほら、一応敵同士というか、何というか…」


先程から疑問に思っていた事だ。
かごめが無力な人間で、何の危険性もないから話したのか、それともかごめを信用して話したのか。
猫芽は虚空を見つめるだけで、何も答えてくれなかった。

暫くして、気配が外でした。かごめが牢の外を見ると、そこにな不敵な笑みを携えた冬嵐が立っていた。


「…いよいよお出ましか、冬嵐」
「ふふ、あんたには存分に働いて貰うよ」
「ちょっとあんた!猫芽ちゃんは殺生丸に忠義を誓ったのよ!」
「おいお前…」
「人間は黙っときな」


いきり立つかごめを冷たい目で見下ろした冬嵐。その眼差しにぐっと押しとどまる。


「それじゃあ行くよ、猫芽。――さあ、あたしらの人形となるがいい!」


声高々とそう告げた冬嵐。すると、すくっと立ちあがった猫芽は、大人しく冬嵐の傍に。かごめは何が起こってるのかと目を白黒させ、彼女の名を呼んだ。


「猫芽ちゃん!どうしちゃったのよ!」
「無駄さね。もうこの子にはあたしの声しか聞こえない」


そう言って口角を上げた冬嵐は、物言わぬ猫芽を引き連れその場から去って行った。


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