灰刃坊の邪悪な剣 「とーった!」 「負けた、阿呆!競争ではない!」 「お、見て邪見様。殺生丸様が言った通り、本当に鬼が死んでるー」 「おー、一体誰が…」 「犬夜叉だ」 二人が振り向くと、霧の中から殺生丸がゆっくりと現れた。後ろから猫芽も続く。 「最も…、奴も無傷では済まなかった様だがな…」 そう言うと、死んでいる鬼の角を掴み頭を持ち上げた。途端りんが叫ぶ。 「(臭う…この鬼の牙……鉄砕牙の臭いがこびりついている…。思った通り…この牙は鉄砕牙を噛み砕いた)」 そのまま頭を担ぐと、来た道を戻る殺生丸。 「行くぞ」 「ってそれ…、持って行くんですか…!?」 『あーやだやだ気色悪い』 「きゃーきゃーきゃー」 「黙れりん。…五月蝿い」 「はいっ」 ――所変わってここは見るに薄気味悪い場所。妖怪の骨が辺りに散らばり、緑色の池がふつふつと気泡を吹いている。 『…うえー』 「先程からうえーうえーと。文句ばかり言うでない!」 『黙れ邪見。…五月蝿い、なーんつって、っ!!』 目の前に鬼の顔が現れ、声にならない声を上げた。 「これから一言も喋るな」 やがて一つの小屋にたどり着いた。そこには、一人の男が酒に溺れて寝転がっていた。 「誰だてめぇ」 「貴様が灰刃坊か。余りに邪な刀ばかり打つ為に、刀鍛治の師、刀々斉から破門されたそうだな」 「刀々斉かぁ。久しぶりに聞いても胸糞悪ぃ名前だ」 座った灰刃坊の目の前に、担いでいた頭を投げた。 「どうだ灰刃坊。その鬼の牙から刀を打ちおこしてみんか?」 それを聞き頭に触れるが、死んだ牙では録な刀は打てないと吐き捨てる。 それに対し、殺生丸は天生牙で頭を斬った。 「…!! こりゃあさっきと見違ぇるみてぇだ…!」 「灰刃坊教えておこう。この天生牙は貴様を破門した刀々斉の鍛えし刀。そしてその鬼の牙は、同じく刀々斉の鍛えた鉄砕牙を噛み砕いたのだ」 「すげぇぞ…!! こりゃすげぇ刀が打てる……!!」 そう意気込む灰刃坊は、含みのある笑いをした。 「打つのはいいが、そのかわりわしに見返りはあるのかい?」 「な、貴様は自分の身分をわかっておるのか!! 殺生丸様がわざわざ、」 「そうだなぁ。そこの姉ちゃんを貰おうか」 頭の後ろで手を組み、我関せずを通していた猫芽は思わず体制を崩した。 『はぁ?』 「よく見りゃあ別嬪じゃねぇか。酌でもして貰いたいねぇ」 いやらしく舌なめずりをする灰刃坊に、吐き気さえ覚えた猫芽は顔を歪ませた。 『誰がてめぇなんか、』 視線を感じて見ると、殺生丸と邪見がじっと見ていた。 『絶対嫌だから!!』 「猫芽…」 『邪見!! お前もう一生助けてやんないからな!!』 猫芽が文字通り邪見に牙を向いていると、殺生丸が灰刃坊に視線を向けた。 「これはやらん」 『え…』 「だが刀が出来終わるまで貸す。これでどうだ」 「チッ……仕方ねぇ」 猫芽は顔を引き攣らせながら、殺生丸達を見送るのだった。 「…頑張れー」 『…………!!(あの野郎ども…!!)』 次 [戻る] |