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第九話‐参




翌朝、またあの少女が食べ物を持ってやって来た。何故かその顔は痛々しく傷ついていて、目は腫れていた。


「…いらぬ」


少女はめげずに駆け寄り、食べ物を差し出す。


「何もいらぬと言っておろう」


少女にはちらりとも目を向けず言う殺生丸に、彼女は悲しそうに俯いた。

猫芽は同じ木に寄り掛かって座り、頭の後ろで手を組んでいた。


「………顔の傷はどうした」


目線はそのままで尋ねた。少女は驚いた様に顔を上げる。ついでに猫芽も驚き、体制を崩した。


「…言いたくなければ別に良い」


殺生丸が初めて目を向けると、その少女は嬉しそうに笑顔になっていた。


「…何が嬉しい。様子を聞いただけだ」

『(…おいおい冗談だろ……)』


猫芽は恐ろしいものでも見る様な目で二人を見ていたのだった。




――殺生丸の傷も癒え森を抜けると、阿吽に乗った邪見が花と睨めっこしていた。


「――試し斬り!? 殺生丸様ー!あの時私が死んでも良かったのですかー!?殺生丸様ー!!」


ゴツン!


「ぐあっ」


殺生丸に石を投げられ、阿吽から落とされた邪見。阿吽は顔を上げ殺生丸に向けた。


「あ!殺生丸様!!」


邪見は起き上がると阿吽の頭に乗った。


「殺生丸様は、この邪見で試し斬りをなさったのですか!?」

「お前は私の身を案じて、探していたのではないのか…?」

「あ…あああの…殺生丸様…ご無事で何よりどがぁん」


再び石を投げられた邪見に、ため息しか出ない猫芽だった。


『………ん?(…犬?……いや狼か…?)』


風が吹き猫芽にとって嫌な臭いがした。殺生丸を見ると、彼も感じた様だ。


「……この血の臭いは…」

『(血?…犬は鼻の効きが違うねぇ…)』




森へと踵を返した一行の道の先には人間の死体があった。


『…あの子供は…』


猫芽が少し驚いた。その死体は、殺生丸に甲斐甲斐しく食べ物を運んでいた少女だったのだ。


「あー!こりゃもう駄目だ。やったのは狼ですなぁ…噛み殺されております。殺生丸様?この人間をご存じなので?」


殺生丸は歩み寄ると立ち止まり、少女をじっと見つめる。


『………』


猫芽は貰った魚と少女の笑顔を思い出す。すると、殺生丸が天生牙に手をかけ抜いた。

刀が脈打ち、殺生丸にあの世からの使いが見えた。


「……試してみるか……この天生牙の力を…」


その言葉に怪訝に思った猫芽は殺生丸を見る。邪見が後ろで喧しいが、ほっとく。


殺生丸がその使いを斬った。そして少女に歩み寄ると抱き起こした。

すると心臓の音が聞こえ、驚く殺生丸。少女は目を開いた。


『な…!!』

「生き返った…!!」


少女は立ち上がると殺生丸を見る。


「あのー殺生丸様。殺生丸様が天生牙でその娘をお助けに…?」


殺生丸は答えず立ち上がると、背を向け歩き出した。

猫芽が呆然と立ち尽くしていると、服の袖を引っ張る感覚。ほうけたまま下を見ると、少女が猫芽に助けを求める様な眼差しで見ていた。


『………一緒に来るか?』


その問い掛けに彼女は嬉しそうに頷いた。


『…よし、お前気に入った!』


猫芽は少女の手を取ると、殺生丸を追いかけその後を続くのだった。




第九話
《名刀が選ぶ真の使い手》



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あきゅろす。
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