翌朝、またあの少女が食べ物を持ってやって来た。何故かその顔は痛々しく傷ついていて、目は腫れていた。
「…いらぬ」
少女はめげずに駆け寄り、食べ物を差し出す。
「何もいらぬと言っておろう」
少女にはちらりとも目を向けず言う殺生丸に、彼女は悲しそうに俯いた。
猫芽は同じ木に寄り掛かって座り、頭の後ろで手を組んでいた。
「………顔の傷はどうした」
目線はそのままで尋ねた。少女は驚いた様に顔を上げる。ついでに猫芽も驚き、体制を崩した。
「…言いたくなければ別に良い」
殺生丸が初めて目を向けると、その少女は嬉しそうに笑顔になっていた。
「…何が嬉しい。様子を聞いただけだ」
『(…おいおい冗談だろ……)』
猫芽は恐ろしいものでも見る様な目で二人を見ていたのだった。
――殺生丸の傷も癒え森を抜けると、阿吽に乗った邪見が花と睨めっこしていた。
「――試し斬り!? 殺生丸様ー!あの時私が死んでも良かったのですかー!?殺生丸様ー!!」
ゴツン!
「ぐあっ」
殺生丸に石を投げられ、阿吽から落とされた邪見。阿吽は顔を上げ殺生丸に向けた。
「あ!殺生丸様!!」
邪見は起き上がると阿吽の頭に乗った。
「殺生丸様は、この邪見で試し斬りをなさったのですか!?」
「お前は私の身を案じて、探していたのではないのか…?」
「あ…あああの…殺生丸様…ご無事で何よりどがぁん」
再び石を投げられた邪見に、ため息しか出ない猫芽だった。
『………ん?(…犬?……いや狼か…?)』
風が吹き猫芽にとって嫌な臭いがした。殺生丸を見ると、彼も感じた様だ。
「……この血の臭いは…」
『(血?…犬は鼻の効きが違うねぇ…)』
森へと踵を返した一行の道の先には人間の死体があった。
『…あの子供は…』
猫芽が少し驚いた。その死体は、殺生丸に甲斐甲斐しく食べ物を運んでいた少女だったのだ。
「あー!こりゃもう駄目だ。やったのは狼ですなぁ…噛み殺されております。殺生丸様?この人間をご存じなので?」
殺生丸は歩み寄ると立ち止まり、少女をじっと見つめる。
『………』
猫芽は貰った魚と少女の笑顔を思い出す。すると、殺生丸が天生牙に手をかけ抜いた。
刀が脈打ち、殺生丸にあの世からの使いが見えた。
「……試してみるか……この天生牙の力を…」
その言葉に怪訝に思った猫芽は殺生丸を見る。邪見が後ろで喧しいが、ほっとく。
殺生丸がその使いを斬った。そして少女に歩み寄ると抱き起こした。
すると心臓の音が聞こえ、驚く殺生丸。少女は目を開いた。
『な…!!』
「生き返った…!!」
少女は立ち上がると殺生丸を見る。
「あのー殺生丸様。殺生丸様が天生牙でその娘をお助けに…?」
殺生丸は答えず立ち上がると、背を向け歩き出した。
猫芽が呆然と立ち尽くしていると、服の袖を引っ張る感覚。ほうけたまま下を見ると、少女が猫芽に助けを求める様な眼差しで見ていた。
『………一緒に来るか?』
その問い掛けに彼女は嬉しそうに頷いた。
『…よし、お前気に入った!』
猫芽は少女の手を取ると、殺生丸を追いかけその後を続くのだった。
第九話
《名刀が選ぶ真の使い手》
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