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第七話‐弐




『どこまで行くんだ?あいつ』


殺生丸を追ってきたはいいが、そいつはあたしに気づいているのかいないのかどんどん奥へと進んでいく。

まあ気づかれてはいないと思う。あたしだって伊達に長く生きていない。あ、四塊のかけら持ってんだった。


そういえば邪見がいない。


てか帰りたい。けどここまで来たら何だか後に退けないし…。


「――猫芽」

『!!?』


驚き後ろに飛びのく。目の前に殺生丸がいた。つーか近っ。


『な、何やってんの。こんな所で』

「………」


殺生丸は無言であたしを見据える。じっと見んな気持ち悪い。

無意識に眉間にしわが寄った。


「……四塊のかけらはまだ持っているな」

『は?まあ持ってるけど』

「寄越せと言ったら渡すか」

『……言ったら渡すが…何で?興味ないとか言ってたじゃん』

「…鉄砕牙を手中におさめるのに必要なだけだ」


不審に思いながらも、鉄砕牙を持つのに四塊のかけらを使っていたのを思い出し、懐を探る。


「早くしろ」

『………やっぱやんね』


どうも可笑しい。

いつもだったら

“そんなものに頼らずとも、鉄砕牙は私を選ぶ。フッ”

とかすかすぐらいなのに。


こいつは殺生丸じゃない。


『てめぇ誰だ』

「貴様は己の主君を忘れたのか」

『忘れた』


と言って口角を上げると、何故かソイツは不敵に笑った。


「ならば…」

『!』


ソイツは距離を一気に詰めると、あたしを押し倒してきた。

不覚にも速くて読めなかった。


『おい何して――っ!』


ソイツは尖った爪先で、あたしの顔のラインをなぞると顎を持ち上げた。

もちろん殺生丸の姿でだ。


「力付くで奪うほかない…」


ソイツはあたしの動揺を見て取ったのか、調子に乗って体中を弄り出した。


『っやめ、お前いい加減に…!』


情けなくもあたしは動けない。ソイツが殺生丸じゃないとわかっていてもだ。


と、時間にしては数十秒だったかもしれない。


あたしが歯を食いしばった時。




ズバ!



目の前からソイツが消えた。

我に返ったあたしが飛び起きると、横には痛々しい姿の狐。もう一方は爪を光らせる殺生丸と人頭杖を構える邪見が。


「化け狐が殺生丸様に成り済ましおって!!何と恐れ多い!!」

「…ぅぐ…四塊のかけら…ァ…」


狐はそう嘆くと息絶えた。

それを見届けた殺生丸は背を向ける。邪見はいつもの様にぴーちくぱーちく五月蝿くなった。


「化け狐ごときに何をしているのだ!!それでは殺生丸様のお供は務まらんぞ!!」

『………』

「聞いておるのか猫芽!!」


邪見がぎゃあぎゃあ喚くが、あたしはそれどころじゃない。

手の甲を口にあてそっぽを向く。




顔が、熱い。




「………」


すると、殺生丸が振り返ったのが気配でわかった。


殺生丸は、尚も五月蝿い邪見の横を通るとあたしの前に立った。


「殺生丸様?」


そしたら殺生丸はいきなり、口元を押さえてる手を力強く掴み引っぺがすと、あたしの顎を掴んできた。


なんだなんだ!?こいつも化けてんのか!?


殺生丸は、多分赤くなっているだろうあたしの顔を見つめる。つーか近っ。


無表情で見つめる殺生丸に対し、どんどん熱が高まるのを感じる。


『………ぅ…っ』


耐えられなくなり、視線をずらすと呆気に取られた邪見が目に入り我に返った。


『は…離せ!』


バッと振り払って、化け猫になりその場を飛んで離れた。


まだ顔の熱は冷めない。



ちっ…意味わかんねー。




(殺生丸も、動悸のするこの心臓も)


第七話
《森の中のある出来事》



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あきゅろす。
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