その表情に 「…ごめん……智恵…」 李野は智恵の墓に呟いた。 暫く無言で墓を見つめた後、それだけ言って背を向けた。 「……一人にしろと言った」 「知らねェな」 そこには上着を肩にかける高杉がいた。李野は眉間にシワを寄せると、寺の敷地外に向かう。少し歩きたくなった。 高杉も無言でついて来る。 ザッ、ザッと二人分の足音が静かな夜に響く。 すると、高杉の頬に一滴の雨が落ちてきた。 「チッ…降ってきやがったか…。本降りになる前に帰るぞ」 「………」 「李野?」 反応もなく尚も歩き続ける。そうしている間にも雨が酷くなっていく。 「おい!」 高杉は李野の肩を掴み、前に回り込んだ。 「――!」 虚ろな目に雨で濡れた頬。まるで泣いている様な表情に、以前見た光景が頭を過ぎった。 「…泣きたきゃ泣きゃあいいだろ……!」 高杉は李野を腕の中におさめた。雨は土砂降りだ。 「(松陽先生の時も…こんな顔してたな…)」 あまり身長差もない二人。李野は高杉の肩に顔を埋めた。 「……いつの間にか…主も拙者も……血の臭いがこびりついたな…」 「……ああ…」 「…晋助に…味方だと言われた時……嬉しかった…」 「…そうか」 「………拙者が…智恵と一緒にいなければ……いつも通りにしていれば…」 「っ言うな」 後頭部に回した手の力を強める。 「……銀時にも…あんな思いをさせて……!!」 その悲痛な声で李野の気持ちに気づいた。 「…………帰るぞ…。風邪引いちゃ敵わねェ…」 体を離し、高杉は上着を李野の頭から被せた。 「……李野…」 何も写していないその表情を暫く見つめる。そして頬に手を滑らせ、唇を合わせた。 李野は目を見開く。 暫くして離れると高杉はその驚きを隠せない瞳を見つめ、 「……俺ァずっと…お前が……」 だが、言葉を切り、目を伏せると顔を離し、李野の頭をガシガシと撫でた。 「いや、…何でもねェ。さっきのは忘れろ。俺もどうかしてた」 「……う、ん…」 高杉は李野の手を取るとそのまま寺へ向かって歩き出した。 その間二人は、終始無言だった。 そして、次の日の戦で李野は、生死不明の行方不明になったのだった。 Next [前へ] [戻る] |