距離と壁
腹を浅く斬られしゃがみ込む高杉の元に駆け寄る来島。武市も現れた。
「ほォ…これは意外な人とお会いする」
「…う、嘘…桂さん!!」
「この世に未練があったものでな、蘇ってきたのさ。かつての仲間に斬られたとあっては、死んでも死にきれぬというもの。
なァ、高杉。お前もそうだろう」
「ククッ…仲間ねェ……まだそう思ってくれていたとは。有難迷惑な話だ」
高杉の着物の下には切れた教本があった。
「まだそんな物を持っていたか…」
桂も切れた教本を出す。
「お互い馬鹿らしい…」
「という事は拙者も馬鹿か」
立ち上がった李野までも血に濡れ切れた教本を出した。
「…また酷くやられたな」
「喧しい。…主には色々言いたい事がある」
「クッ…てめェらもそいつのお陰で、紅桜から護られたって訳かい。思い出は大切にするもんだねェ」
「小太郎、晋助…」
互いに厭味合う二人を李野は色んな意味で辛そうに見る。
く…苦しい……。
「…小太郎…物は相談なんだが…」
ドゴォン!!
李野の声を遮り、船の倉庫らしき所が爆発した。
「貴様の野望…悪いが海に消えて貰おう」
その後も続く爆発音。
「う…(頭に響く…)」
「桂ァァァア!!」
「っくそォ…!!生きて帰れると思うなァ!!」
「江戸の夜明けをこの目で見るまでは死ぬ訳にはいかん。貴様ら野蛮な輩に揺り起こされたのでは、江戸も目覚めが悪かろうて」
丸太に縛られた神楽を解放すると、切っ先を高杉一派に向けた。
「朝日を見ずして眠るがいい!!」
「眠んのはてめェだァァァア!!」
「ふんんぐほぉっご!!」
後ろにいた神楽は桂の体を掴むと一気にジャーマンスープレックスをかけた。
新八は丸太をズルズルと引きずり、
「てめェ人に散々心配かけといて…エリザベスの中に入ってただァ!?ふざけんのも大概にしろォォ!!」
「ぬがぁぁああ!!」
そのまま桂を殴りつけた。
「いつからエリザベスん中入ってた、あァ"!?いつから俺達騙してたァ!!」
「ちょ待て!今そういう事を言ってる場合じゃないだろ!ほら見て!?今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だよ!?」
「うるせェんだよ!!こっちも襲い掛かりそうな雰囲気ィ!!」
憤慨する新八達にひたすら言い訳をする桂。その中、李野は高杉を見据える。するとそれに気づいた高杉も目を合わせニヒルに笑った。
「………」
もう…あの頃のようには……戻れないのか…?
「ククッ、大丈夫かァ?李野」
「大丈夫か!?李野!!」
いつの間にか、こんなにも遠い…。
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