倒れたヅラ 夜も更けた頃。 電柱の蛍光灯に蛾がたかっている。 桂は網笠を被り、橋の上を歩いていた。 「――ちょいと失礼」 と、後ろから声をかけられ足を止める。 「桂小太郎殿とお見受けする」 「……人違いだ」 「心配いらんよ、俺は幕府の犬でも何でもない」 満月が二人を照らす。 桂は後ろの輩を振り返ることなく、瞳を閉じたまま口を開く。 「…犬は犬でも、血に飢えた狂犬といったところか…」 「近頃巷で辻斬りが横行しているとは聞いていたが……噛み付く相手は選んだ方がいい」 そう言った桂に、男はニヤリとし柄に手をかけた。 「生憎俺も相棒も、あんたの様な強者の血を欲していてね。一つやり合ってくれんかね」 刀を抜く音に、桂はバッと振り向いた。そして男の刀を見、目を見開く。 「貴様その刀――」 桂は柄に手をかけていたが、男が速い。 「…あーらら。こんなもんかい」 ブシャア 月夜の空に鮮血が舞った。 [前へ][次へ] [戻る] |