でもここはシリアスで
「………」
李野が目覚めると、月明かりだけが照らす薄暗い部屋のベッドに寝かされていた。
「……よォ、やっとお目覚めかい?お姫さん」
「!!………晋助…?」
李野が横を見ると窓辺に腰掛け煙管を吹かす高杉がいた。
李野はとりあえず体を起こそうとするも腹に鈍い痛みが走る。
それに耐えながら体を起こし、高杉を恨めし気に見る。
「……思いっ切り入れおって……話がしたいならそう言えばいいだろう。別に拙者は逃げはせん。……あー絶対これ痣になってる」
「そりゃあ悪かったな。だがお前さんは俺に少し恐れを持ったんじゃねェか?」
高杉が李野に触れた時の事を言っているのだろう。
「っあれは……あれはお主がまるで獲物を狙う様な目をしていたからだ。あれでは誰でもビビるわ」
「ククッ、そうかい……じゃあ、」
これならどうだ、とこちらに近づき李野の顎を持ち上げ目線を合わせる。
「にしてもここはどこだ?」
「………」
「まさか空の上とか言うんじゃないだろうな」
「………」
「あの毛モジャみたく“ここは宇宙ぜよー!!”とか抜かしおったらどたまぶち壊すからな」
「………もうぶち壊してんじゃねェか」
雰囲気ぶち壊しの李野から手を離しまた窓辺に戻る。
それを見届け李野は内心ほっとした。
何あのギラッギラした目。恐っ。
「…ここは俺の“鬼兵隊”の船だ」
「!…“鬼兵隊”…?」
「何だ、知らねェのか。これでも有名人だぜ、俺ァ」
「お主の事は嫌でも知っている。いい年こいて暴れ回っているとな」
「ククッ…俺ァまだ若ェんでな」
月明かりが妖しく高杉を照らすのを見て、李野は言いようのない焦躁にかられた。
思わず手を伸ばすと、その手を捕まれた。
「…誘ってんのか?」
「……消えてしまいそうだ…」
「…あ?」
「……いや、何でもない…」
そう言って手を引こうとしたが高杉は離さない。李野が訝し気に見ると、高杉はにやりとニヒルに笑った。
「なァ…俺と来い、李野」
「!」
「お前ェも憎いだろ?この腐った世界が」
「………」
「俺ァなァ、あの日誓ったんだよ。全部ぶっ壊してやるってよ」
「………」
「…なァ…李野」
頬を撫でる高杉の手にぞくりと背筋に走った。
「……帰らせて貰う。ヅラにも言ったが拙者は自分の事で手一杯だ」
そう言い身を引こうとするも逆に握られた手に力が篭る。
「ククッ………誰が銀時のとこなんかに帰すかよ」
「!!?」
高杉の目が一層鋭くなったと思いきや、ベッドに押し倒された。そして高杉が覆いかぶさる。
「っ何して…」
「天然ぶんのもいい加減にしろよ」
「!」
「とっくに気づいてる筈だぜ」
「………」
「…俺のもんになれよ…」
そう耳元で囁き顔を近づける。だが李野は高杉の目を真っ直ぐ見返し言い放った。
「…嫌いだ」
その言葉に動きが止まる高杉。
「…今のお主なんか嫌いだ。拙者の知っている晋助はこんな奴じゃなかった」
「……俺ァ何も変わっちゃいねェ…」
「いや変わった。ずっと不思議だった。何かが違うと、まるで知らない人間の様だった」
「………」
「お主の目だ、変わったのは」
李野は高杉の目を見続け更に続ける。
「お主の目はいつも優しさを帯びていたし、その中に強さもあった。だが今の主の目には何も見えない、虚ろな目をしている」
「……」
「………拙者達は先生から“護る剣”を教わった…だが、何故晋助はその剣で壊している?」
「………」
「先生の敵と言い、先生を否定したこの国を壊す事がお主の信念か?」
「……黙れ…」
「それこそ松陽先生に背いて、否定しているのは紛れも無い、お主だ晋助」
「黙れっつってんだろ!!」
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