行き倒れ
――江戸 かぶき町――
「定春ー定春ーー?どこ行ったネ全く」
使いに出てた神楽はいなくなった定春を探していた。
すると、家々の間に屈み込んでいる定春の後ろ姿を見つけた。
「こんなとこにいたアルか、早く帰らないとダメガネがうるさいヨ……って」
「わん!」
定春が振り返った先にあったのは緑だった。
「まりも?」
「わん!」
「定春、拾い食いはだめって銀ちゃんにも言われてるアル」
「わん!」
定春はとうとうまりもをくわえた。
「そんなのメス犬にあげてもふられるだけネ」
「わん!」
「そんなのペッしなさいペッ!!」
「わん!」
「…定春もしぶといネ……こうなったら…」
「す…すまぬが……」
「うおっ!まりもがしゃべった!!」
「…腹が減ってな……動けんのだ…少しばかりの食料を……ガクッ…」
――万事屋銀ちゃん――
「ぅおーい新八ィ、今けぇったぞー」
「おかえり神楽ちゃん、頼んだもの買ってきてくれた?」
新八はテレビを見ながら言う。
「それより見ろこれ、まりも拾った」
「はいはい、銀さんにも言われてるでしょ?拾った所に帰して……って」
新八が見たのは定春にくわえられた、ぐったりしている緑の頭をした人間だった。
「え…まりもっていうか人間…だよね……もしかして定春…やっちゃってないよね?……いや、いつかはやると思ってたけどやっちゃってないよね……」
「なんか腹空かしてるみたいネ、早く飯作るネ」
「な…なんだ行き倒れか……よかった」
「いやー食った食った。かたじけないな、ほんと」
「いいですよ、困った時はお互い様ですから」
出された茶を飲み一息つくと、
「そういえばまだ名乗ってなかったな、拙者は水野李野と申す」
「あっ、僕は志村新八と言います」
「私神楽ネ!こっちは定春、かしこいわんちゃんアルヨ!」
自己紹介を終え、少し他愛のない話をした。
「おお、もうこんな時間か」
そう言って李野は立ち上がった。
「えっもう行っちゃうんですか?」
「もうちょっと話したいアルヨ〜」
「すまないな。拙者も人を探している故」
李野は申し訳なさそうな顔をして懐から巾着を取り出した。
「これ、お礼と言っては何だが…」
「うわ重っ…ってお金!?」
「こんな大金初めて見たアルヨ!!李野って金持ちアルか!?」
「まぁそんなもんだ」
李野は苦笑混じりに答えた。
「(じゃあ何で行き倒れなんか…)あっ人探しなら僕等も手伝いますよ、来たばかりの李野さんより僕等の方がかぶき町の事知ってるし」
「そうネ!この“かぶき町の女王”にドンと任せるヨロシ!!」
「何たってここは万事屋ですし」
「……気持ちは嬉しいが、これだけは拙者が成し遂げたいんだ」
「…そうですか」
「拙者も暫くこのかぶき町に居るだろうからまた会えるさ」
「その時は絶対声掛けるヨ!李野も私を見たら絶対声掛けるネ!約束ネ!!」
「またお腹空いたらここに寄って下さいね!」
「………」
李野は一つ微笑むと一礼し万事屋を去って行った。
「――おーい、帰ったぞー」
その万事屋の主人が帰って来たのはそれから暫くの事だった。
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