no title
「――――おやおや、行き倒れですか」
――城から逃げ出し、どれだけ走ったかわからない。ただわかるのはとうに限界は超えていたということ。
「………ここは…?」
「萩という田舎ですよ」
弟の遺影だけを持ち出してきたのはいいが、無謀にも程があった。
「………何を、」
「見たところ怪我をしているようだ。すぐそこに私の塾があります」
「………よ、けいなことを…するな…っ」
もう全てがわからなくなってしまった。どうして、どうして死んだ伊織…。
「………もう死にたいんだ……」
自分の存在価値も存在意義も、何があるというのだ。誰か、教えてくれ………。
「死にたい?まだ人生の素晴らしさを知らない童子がそんな事を言うもんじゃない」
「………知っ、たような口を、きくなっ」
「おいで。私が君に教えてあげよう」
「………人の話を…っ」
――一つ言うとすれば、初めての背中は暖かかったということだ。
「――……父上、母上…」
李野は両親の墓の前にいた。線香がゆらゆらと煙を上げている。
「――夏目」
その隣には、夏目の墓があった。同じく線香があげられている。
「どうか安らかに……」
立ち上がると、着物をはためかせ踵を返した。行く先には、兜を被り馬に跨がった青年と、サングラスをかけた男がいる。
修復中の福山城には、満開の桜が咲き乱れ、その花びらが散るなかを李野は、安らかな表情で瞳を閉じながら歩くのだった。
「――もう死にたいだなんて思っていませんね?」
「……はい。今は死ぬのが勿体無いくらいです」
「だってそこら中に生き甲斐があるのだから――」
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