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おじさん


それから五日後。


「ちょっと、いつまで寝てるつもりっすか。いい加減起きて下さい」
「……うーん、あと5分寝かせてくれよ母ちゃん」
「永眠させてやろうかゴラ」


結構本気そうな声色だったので、李野は渋々起き上がる。腹が鈍く傷んだ。


「…今何時何分、地球が何回まわった時?」
「城が木っ端微塵に崩れて一週間です」
「崩れ…!? ……あー思い出した…。どーすっかなー、アレ」
「それより事態は大きくなりました」
「は?」
「幕府の方がいらっしゃってます。しかも江戸からわざわざ」


勝犁が嫌そうに言う。確かに面倒なことになってしまった。できれば穏便に事を終息させたかったが、そういう訳にもいかないのだろう。


「…どうしますか?」
「……お前は巻き込まれただけだ。全てのお咎めは私にくるだろう」
「あなたも巻き込まれただけでしょう」
「そうはいかない。主犯格である毛利は死んだ。その上協力者である両親もいない。だとすると?」


問い掛けられた勝犁はぐっと黙った。言わなくても、言われなくても勝犁にはわかっていたことだ。


「例え無謀だったとしても、幕府に謀反を起こそうとしたのは変わらない。ただじゃ済まされないだろうな」
「……だが、あなたはその事実は知らなかった。でしょう?」
「私がほんの子供だったなら、もしかしたら見逃してくれたかもな」


だが李野はいい大人だ。自分の意思で行動できる大人。大事になる前に阻止できたものをしなかっただけの話。


「全ては私が招いた結果だ」


勝犁は、その強い目を見て理解した。彼女はこうなることを覚悟の上だったのかと。両親と共に裁きを受けることも。


「――邪魔するぜ」


ノックもなしに入ってきたのは黒い隊服に身を包んだ三人の男。近藤、土方、沖田だった。


「療養中悪ィがあんたに話があってな」
「……あー」
「あ?」
「いや少し待ってくれ。もう少しで思い出せるのだが…。うーんー、なんだったっけ?」
「……てめェまさか俺の名を忘れた訳じゃ…」
「ソルジャー伊藤」
「それだ!」
「違うよ!? おめェも何突拍子もねェこと教えてんだ総悟!!」


ペースを乱された土方は咳払いをすると、話を戻した。


「話を聞くっつってもあんたがやったことはもう分かってる。言い逃れはできねーぞ」
「………」
「土方さーん、これって俺らの管轄外じゃないんですかィ? ぶっちゃけ面倒」
「ガタガタ抜かすな。生憎俺らのボスは幕府直轄だ。加えて幕府のお役人は忙しいときた」
「いいように使われますねィ、真撰組も」


腕を組む土方は黙りこむ李野を、その鋭い視線でじっと見据える。李野も視線から逃げない。


「…私の両親は罪人として扱われているだろう」
「まァな」
「………親を守りきれなかった子が、言い逃れなどしない。親が罪を背負うというなら子も背負うのが、子の勤め。かもな」
「李野様…」


そこで、今まで口を閉ざしていた近藤が一歩前に出、口を開いた。


「実は今あんたと話したがってる人がいるんだ」
「私と…?」


口元に笑みを浮かべた近藤は、携帯を李野に渡した。それを訝しげに見つめ、そろそろと耳にあてた。


「……はい、」
『――よォ、噂の嬢ちゃんか?』
「……失礼だが貴方は?」
『なァに、俺ァただのキャバクラ好きなおじさんさ』
「………は?」




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