家族
「それでよォ、何? 弟っつうのは姉ちゃん刺していいワケ? なわけねーよな」
「……白夜叉…」
「よくご存知で」
銀時は木刀の背で肩を叩き、まるで伊織を挑発している様な態度だ。対して伊織は相も変わらず無表情のまま。
「――その顔つき、からくりだとしてもほんとに兄弟みてェ」
「……確かにからくりだが、俺は弟だ」
「黙れ。てめェがこいつの弟名乗る資格なんざねェんだよ」
彼の口調は、どこか笑いを含ませているのか、怒りを抑えているのか、少し震えていた。
「いい加減、てめェら家族にはもううんざりだわ。平気で家族陥れるわ、平気で家族傷つけるわ、そんな家族でも全力で守ろうとするめんどくせーヤツはいるわ」
李野は止血をされながら無言で聞いている。
「え? 家族ってなんだろうって? そんなモン……」
――それは一瞬だった。
「てめェで考えやがれコノヤロー」
ビリビリと電気を纏った伊織は、機械音を立ててその場に倒れた。
「ほら見ろ。こんなマガイモノでも傷ついたら酷ェ面してらァ。てめェとは大違いだ。――なァ李野」
「……ハッ、何度も、言うが、知った様な口、をきくな…」
「へーへー、あんま喋んなよ。死ぬぞ」
「……誰がっ…」
銀時が視線をやった先で李野は倒れた弟を辛そうに見ていた。
「バ、バカな……!!!」
一方、先程までの余裕はどこへやら、夏元はわなわなと震えていた。
春雨の最新技術を使ったからくりが、こんなただの人間に、しかも一瞬でやられるなんて。戦闘技術も相当のものだぞ!?
「銀さん甘く見んなよ」
その夏元の考えを見透かしたように銀時が口角を上げる。
「伊織…!!? 返事をして伊織!! ……いや…いや………イヤァァァアア!!!」
唯一の心の拠り所だったであろう伊織が目の前で倒れたことで、政子は取り乱し泣き叫び始めた。夏元は夏元で、明らかに狼狽え動揺を隠しきれてない。
あれだけいた春雨の軍も全員倒されている。夏元の野望は、打ち砕かれたも同然だった。
「(くそっ! これしきで諦める私ではない……!!!)」
夏元は考えるように視線を巡らせる。目に映ったのは桂に手当てされる李野、そして泣き叫ぶ政子と勝俊夫妻。
勝機を見つけた大きく口角を歪ませる。それに気づいた銀時は警戒を強めた。
「……最初からこうすればよかったのだ…!!」
夏元が目線を向けた先は、李野の両親であった。
「あ? 何するつも、」
駆け出した夏元。男がしたことは、勝俊が護身用に置いていた銃を奪ったことだった。
「はははは!! 貴様らには失望したわ!!」
狂気に満ちた目を李野にチラリと向けてから、照準を今度は夫妻に向けた。
「こやつらが駄目なら、また新たに傀儡を見つければよい話だ!」
「!!!」
「けっ、救えねェ奴だぜ」
銀時が吐き捨てる。
李野は目を見開き、すがるような眼差しを父に向けた。その父はやはり、魂の脱け殻の様な表情で、虚ろな目を夏元に向けるだけだ。
「…やめろ…!!」
「ほォ? その体たらくで何ができると言うのだ。まァ、今まで何もしなかったのがお前だがな」
かすれた声で悲痛な表情をする李野。そんな中で、桂と高杉は正直言って彼女の両親がどうなろうと構わなかった。二人にとって大事な彼女を傷つけ、あまつさえ道具扱い。
李野には悪いが、この夫妻も救えやしないと彼らは思っていた。
「安心しろ、すぐにこの場全員葬ってくれるわ」
「やめろ!!」
傷口から血が吹き出すのもいとわず必死に叫ぶ。
「………」
「待てよ銀時。やらせてやれ」
「なっ、高杉てめェ」
足を前に出したとき、背中に刀を突きつけられた。高杉はこの状況で薄く笑っている。彼は、どうせこいつらは長くない。と独り言の様に呟いた。
「バカ言ってんじゃねェよ。俺だってどーでもいいんだよ、あんな奴ら。けどなァ、こりゃあ依頼なんだ。あいつの」
「…頼む…… 力を貸してくれ……!!」
「俺ァはなっから報酬目的だコノヤロー。ってことで離せや中二病」
少し青筋を立てた銀時が振り返り高杉の胸ぐらを掴んだ。
「――待て李野!!!」
桂の叫び声。二人の横を“緑"が過ぎ去った。
――ドーン!
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