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夏目


そんな時だった。

今まで李野と政子のやり取りを面白そうに見ていた夏元が、銃を李野に発泡したのは。


「李野!?」
「…大丈夫、避けた…」


桂の声に答えた背中はしゃがみこみ、確かに避けたようだった。


「避けた、ねェ…」


冷や汗をたらりと流した李野のが押さえている肩からは血が流れている。狙ったのか、父に撃たれた所と同じ位置だった。
つくづく悪どい男だな、と彼女は思う。


「奥方様」
「!」
「今更後戻りはできませんよ」
「…わかっております」


まるで縛り付けるような言い方だった。すると李野は、先程から何も言わない父に気づいた。何一つ表情を変えず、その空虚な目はどこか異様だ。そこで嫌な予感がした。


「…父に何をした毛利」
「あなたもその身をもって体験したでしょう?」
「!?…“転生郷”…」


父、勝俊はとうに薬づけにされていたのだ。それに何故気づかなかった!?


「…いつからだ…いつから……こんなことに…!! 母上も何故!! 父上を愛していたのでしょう!?」


李野の言葉に母は答えない。ただ狂った様にこれしか方法がないと繰り返し呟くだけ。この様子だと、母も薬を盛らされたに違いなかった。


「毛利貴様!!」


カチャリ

再び突きつけられた銃。動きたくても動けない状態に奥歯をギリリと鳴らした。
両親をまんまと手玉に取られた挙げ句、薬づけにされてしまった。李野は自分が情けなくて仕方がなかった。


「あなたにはお仲間共々死んで貰おう」
「くっ…(一か八かで避けられるか)――ごふっ!!」


突然、血を吐き出した李野。銀時達は目を見開く。彼女自身も何が起こったかわからない様だ。

なんだ…!?


「やっと効いてきたか…」
「っさっきの銃弾か…!!」
「ご明察。少しばかり細工をしましてね。知ってましたか? 私は腹の中真っ黒なのですよ」


夏元は口角を吊り上げ、改めて李野に照準を合わせる。

銀時達は焦る。李野は動けない状態だ。


「くそっやべェ…!!」


助けに行きたいが、敵が多すぎる。まるで李野達に近づけないようにしている。


「どけェェエ!!」


パァアン!




「――なっ…」


李野に崩れ落ちてきたのは、夏目だった。


「うっ!」
「!! おい!しっかりしろ!!」


抱き抱え、自分と同じように血を吐く夏目を控えめに揺さぶる。もう助からないのは一目瞭然だった。
夏目は李野の頬に、震えながらも手を伸ばすと穏やかに笑った。


「…君が無事なら……僕はそれで…かまわない…」
「……夏目…」
「ああ……やっと…名前………呼んで……く、れた……ね……」


夏目から力が抜けていき、ガクンと頭が垂れた。


「………」
「…チッ、邪魔をしおって」


そこで、李野の怒りは頂点に達した。







―――――
パパの不自然に気づくの遅し。

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あきゅろす。
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