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マガイモノ





「――――お久し振りです。……姉上」





「……い…お…り……?」


たらりと口の端から血が流れる。それが顎を伝って、畳に染みを作った。

確かに李野を刺している男は、彼女の事を“姉上“だと言った。自分の事をそう呼ぶ人間は、李野は一人しか知らない。
確かめたくても、その者の顔を振り返る事は叶わなかった。


「否、今は謀反人と呼ぶべきでしょうか…」
「ば、かを言うな……伊織はとうに死んで……ぐっ!」


容赦なく抜き去られた刀。支えを失った李野の体は膝をつき、前へと傾く。それを桂が受け止めた。


「…ハァ……ハァ…」
「李野!! しっかりしろ!!」


桂は李野を抱き抱え、腹を押さえる李野の手の上から更に自身の手で押さえた。


「………」


高杉の足元には李野の血飛沫があった。
彼の頭に浮かぶのは数年前、智恵が李野を庇ったあの光景。


「坂元!! 勝犁殿を呼べ!!」
「わかっちょる!」


駆け出していく坂元の足音を聞きながら李野は、桂はやはり、冷静に人を動かせる男だなと場違いな事を思った。そして、自分を庇うように間に立つ銀時の背中を見つつ、刺した男の顔を見た。


「!……ぅ……何故…伊織が……否、ほんと…に、いお、りか……!?」


目の前の人物に信じられない様な声を出した李野に答えたのは、夏元だった。
彼は崩れた衣服を整えながら、勝ち誇ったように笑む。


「それは“からくり”だ」
「……なに……!?」
「私が春雨に頼んで造らせたモノだよ。姿形、記憶も本人そのものだ。ただ、貴様に関しては少し違うがな」


そう言い、やがてニタリと口角を上げた。


「貴様の母は、これで簡単に堕ちた」
「!!……げど、うが……!!」


これで、何故母が夏元という悪人に手を貸したのかわかった。激愛していた伊織を亡くし、さらに子が生まれぬ体になり、憔悴しきってた母には絶好の“エサ”だっただろう。


「……伊織…?」
「何ですか母上」
「ああ、伊織…!! こっちに来て…?」


伊織の声は恐ろしく無感情。母の腕に包まれる弟は正しく“造り物”だった。


「伊織殿、早く止めを刺しなさい」
「御意」


夏元の声にすぐに返事した伊織は、未だ李野の血が滴る刀を彼女に向けた。


「残念です姉上。俺にとって良き姉でいて欲しかったのに」
「――オイオイ、棒読みたァ大根役者もいいとこだぜ。一昔前の木村佳●かってんだ」


だがこの男は黙っていなかった。ふざけた口調と顔つきだったが、昔馴染み達からしたら、銀時が相当怒っていることは明白だった。



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