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周りを見れば



――いつからか。そう、いつからか、だ。





私は幼い頃から一人ぼっちだった。両親とは遠い離れに一人で住み、親の顔も知らず育った。別にそれを悲しいとも思わなかった。私は感情というものを持ち合わせていなかったから。


そんな時、弟という存在を知りそして出会った。弟、伊織は病弱で寝たきりだったが、とても明るい子だった。互いにすぐ打ち解け毎日の様に会話をして、伊織も大分元気になった様だった。


そんな幸せもつかの間、それを知った両親が怒り、伊織に近づくなと言われた。理由は私がこんな風貌をしているから。


それから間もなく伊織は死に、母は子が出来ぬ体に、水野家の情勢は傾き始めた。これも私が生まれてから起こる不幸の連続。


側室達も絶好の機会だとばかりに是非我が子をと推してきたが、何故かその側室達がバタバタと死んでいき、妾の子もどこかへ消えた。その頃から毛利の影が見え隠れしていた様に思える。


恐らく…否、これは確信に近かったが、母と毛利が手を組みやった事だろう。毛利が上手く丸め込んだに違いなかった。


何も知らない父はただ祖父の影に怯え、私に伊織の代わりを強要させた。それから“私”は“拙者”に代わり、髪を切り、武術も一通り習った。


最初は戸惑っていたこの生活も漸く慣れてきた頃、突如縁談の話が飛び込み、有無を言わさずそれを受けろと言う。


もう我慢の限界だった(今まで我慢していたのかは定かではないが)。こんな息苦しい家にはいたくなかった。初めて反抗というものをし、弟の遺影を持って私は家を飛び出したのだ。






「――………」


李野は勝犁と話しながら、何やら揉めている四人を見遣る。


「…つか大丈夫っすか? 桂さんはいいとして、あの過激派の人私恐い」
「殺される事はまずない」
「はぁ…」
「今言った事、確実にやるように。本丸にいる女子供は皆避難させろ。…多分ぶっこわれる」


何かと派手にやらかす同期を連れていくのだ。損害賠償は全て坂本に請求すればいいが。


「……勝犁」
「はい?」
「…お前は…何故私の味方をしてくれる」
「は、何を今更。私はあなたの従兄弟、つまり家族っすから敵味方もないでしょうが」
「………そうか」
「この城の者も皆、あなたが藩主様を変えてくれると信じてますよ」


それと、と続けて勝犁は柔らかい笑顔を李野に向けた。


「もうご自分が一人ではない事が、わかったでしょう?」
「…うん」




――いつからか。

一生孤独だと決め付けていた私の人生には、沢山の人で賑わっていた。

だがもしかしたら私が目を逸らしていただけで、いつからかでもなく、生まれた時から既に沢山の人に囲まれていたのかもしれない。



「(…私がもし、あの時家出などしてなければ…)」


ついに取っ組み合いを始めた四人を見て、つくづく思う。


本当に出会えてよかったと。





「鎮まれ貴様らァァアアア!!」




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あきゅろす。
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