友、仲間、男達
――ポタリ…。
畳の上に血が滴り落ちどんどん赤く染めていく。懐刀が畳の上を転がった。
「………坂本…お前……」
「…まァあれじゃの。お約束ぜよ」
桂が隣を振り向くと銃を構えた坂本。その銃口からは煙がゆらゆらとあがっていた。
「……間一髪ってとこか」
銀時はそう呟くと腕を組んだ。
「……っ、邪魔を……」
李野は撃たれた手をもう片方の手で押さえる。
「…おい李野。てめェどうせなら腹を切れ。お前さんそれでも侍か?」
「高杉!李野をこうしたのも半分貴様のせいではないか!」
「あァ?俺ァちょいと催眠状態にしただけだぜ?」
「だからそれを言っているのだ!」
桂はぷんぷん怒りながら李野に歩み寄った。そして止血しようと手ぬぐいを出し屈んだ。だがその手を振り払われてしまった。
「……………っどうして……」
「李野…」
「……父上と母上は私を見てくれない…。家出も一度はしたが…それ以外はちゃんと言う通りにしてきた……。……だけどほんとは…“拙者”になんてなりたくなかった…………ほんとは離れになんていたくない……傍にいたい……」
俯き震える李野に桂は眉を下げる。高杉はいつの間にか腰を下ろし、傍観を決め込んでいた。
「……李野ちゃんよォ」
銀時の声に李野は僅かに顔を上げる。
「父ちゃん母ちゃんがてめェから目ェ逸らしてんじゃねェ。てめェが目ェ逸らしてんだよ」
「…は……」
「親の為親の為って、そうやってただ逃げてるだけだ」
「っ意味のわからない事を言うな!親の為に動いて何が悪い!」
「じゃあちゃんと向き合った事あるか? ちゃんと話した事あるか? 父ちゃんの肩揉んでやった事あるか?」
「………!!」
「ねーだろうが。どうせやる前から諦めてんだろ」
「お前には何もわからないと言った!!……こうする他なかった……!! だって仕方ないだろう…!? 毛利との婚約を申し出たら……初めて顔を合わせて貰えたんだ…!! 期待もしてしまう……!!」
李野はうなだれた。もうほんとにどうすればいいかわからなかった。
自分一人の力なんてたかが知れている。自分一人では何もできない。
すると唐突に桂に手を包み込まれた。
「…李野。銀時の…俺達の言いたい事がわからないか?」
桂は時間をかけて李野の手を手ぬぐいで巻いていく。
「…何の為に仲間が、友が、俺達がいる」
巻き終わりもう片方の手を今度は力強く包み込んだ。
「前を見ろ。お前は一人ではない。俺達がいる。否、俺達だけではない。勝犁殿もこの城の者もお前を心配している。江戸にだってリーダーに新八君達もいる」
「………」
ポタリ、と桂の手の上に水滴が落ちた。
「――どうするじゃなか。おまんがどうしたいかちや。さっきゆうた事がおまんのしたい事ぜよ。それが正解かどうか誰にもわからん。けんどそんなもの今はどうでもいいきに」
その後もどんどん水滴が落ちていく。李野はとうとう顔を掌で覆ってしまった。
「………もうてめェが言う事はわかってるな」
銀時は歩み寄り、李野に手を差し延べた。高杉も立ち上がり、獲物を腰に差す。
「……っ………。…全て終わらせる…。…頼む……力を貸してくれ……!!」
李野は銀時の手を取って立ち上がったのだった。
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