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楽に


「お楽しみの所悪ィが、ちょいとお前さんとお話がしたくてな」


高杉は薄ら笑いを浮かべながら、事切れた天人を外に放り投げた。その乱暴な行動に李野は少し後ずさった。

ふと、あのふざけた侍が言っていた言葉を思い出した。


「…………(まずい)」


李野は一先ず立ち上がろうとするが、ふらつき前のめりになってしまった。


「おっと」
「……体、が…ふらふらす、る…」
「恐らく“転生郷”だろうなァ」
「て…?」
「麻薬の一種さ。取り敢えずこの状態じゃあ話もできねェ。先ずは眠りな。それからがお楽しみだ」


李野は嫌な汗が背中に流れたのを感じ、意識を飛ばした。








「――……つ…っ」
「お目覚めか?お姫様」
「(……デジャヴュ…)」


李野は頭痛に顔を歪ませ体を起こした。傍らには煙管を吸う高杉。


「万斉が世話になったみてェだなァ、ククッ」
「………いつからいた」
「さァな」


高杉は煙管を手先でクルクル回すと、やがてボキリと無惨な音を響かせた。


「……式を挙げるって…?」


李野は視線を巡らせる。いつの間にか夕方だった。


「………そうだ。…明日挙げる…」
「ほォ…?」
「お前を招待した覚えはない。どっか行け」
「……人格変わったか? いや戻った、か…」


高杉は面白そうに笑みを深める。李野に背を向けると、夕焼け空を見上げた。


「まァ俺としてはそっちの方が好みだな。ヘラヘラと誰かさんの真似してる奴よりは」
「………」
「そうまでして銀時に好かれたかったか?あ?」
「………」
「…おい、何とか言……」


振り返ると四つん這いにそろりとこの場を逃げようとする李野が。


「………いい加減殺しちまうぞゴラ」


ギクリと肩を揺らした李野は、諦めてその場に座った。


「…一言言うが、別に銀時は関係ない」
「……そうかい」
「もう帰れ。帰れ帰れ帰れ帰れ」
「聞けねェ頼みだな」
「……っなんで……お前達は……」


どうして一人にしてくれない。放っておいて欲しいのに。


小さなその呟きに高杉の眉がピクリと動いた。


「……随分甘ちゃんな事言う様になったな、てめェ」


高杉は立ち上がると李野に一歩近づいた。


「おめェ人には偉そうな事言っといてそれかよ。ハッ、片腹痛いな」
「…なに…?」


顔を上げると無表情の高杉に見下ろされていた。獣に睨まれている様で李野は目を見張る。


「放っておいて欲しいだァ?まさか本気で言ってる訳あるめェな」


高杉が一歩近づく毎に李野はそれだけ後ずさる。転生郷とやらのせいで、上手く体が動かず立ち上がれない。


「くっ、来るな……」
「…ククッ、俺が恐ェか?」


やがて壁に追い込まれ一気に距離を詰められた。顎を掬われ逃がさない様に目を覗き込まれる。


「…そんだけ辛ェんだったら、俺んとこ来い」
「それ、は出来ないと…」
「あんな親は捨てちまえよ。子を子とも思ってない様な奴は親の資格なんざあるめェ。…なァ?素直になれ、こっちに来たら思う存分愛してやるぜ?」
「……愛す…?」
「そうだ」


追い込まれた精神状態と、僅かに残っている転生郷も相まってか正常な判断が出来ない。それをわかってか高杉は更に続ける。

「俺と来い、李野。辛い思いはさせねェ」
「…し、んすけ……」


李野の目が虚ろになる。高杉は顔を徐々に近づけた。


「あ……」


もうこのまま流されてしまおうかな、と思った瞬間。




「――待て待て待てェェエエ!!!」




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