復讐
「――な、江戸を制圧ですって…!?」
李野の肩に包帯を巻く勝犁は驚きに声を上げた。
「何と無謀な…。江戸を制圧なんて出来るわけないでしょうに」
「ああ。こんな田舎者と春雨のちっぽけな艦隊が組んだところで敵いやしない。…だが、平和に暮らす民が必ず被害を受ける…」
「………。…ん? ですが、幕府のトップと春雨は繋がっていると聞きますが…」
「さあな。どうせ欲に目が眩んだんだろう」
ぶっきらぼうにそう答えると膝を抱えうずくまった。
「…どうすればいい。もう二人に間違った道を進んで欲しくない」
「じゃあ言えばいいじゃないっすか、叔父上殿達に」
「言っても何も変わりはしない。私の言葉なんて無意味だ。…何も変わらない」
「………あっそ」
「…は?」
勝犁は包帯を巻き終え、その上からバシンと叩くと立ち上がった。李野は痛みに悶える。
「だァから坂田さんにも言われるんすよ、あなた」
「…何が言いたい」
「自分で考えなはれやバーカ」
無表情で言うと、スタスタと襖を閉め出て行ってしまった。
「……バカ、か……(絞首刑にしてやる…)」
勝犁が出て行き、言われた言葉の意味やらこれからの事やらを考えていると、しゃがれた声と共に“異形”が入って来た。
「邪魔するぜェ」
李野は冷めた目で見上げると、何用かと聞く。
「ククククッ」
不気味に笑いながら近づく天人。李野は少し後退り、懐刀をこっそり手に携える。
「…おい、何用だと聞いている」
「ククククッ」
どうも様子がおかしい天人に怪訝に眉を寄せる。
「おい、――!!?」
いきなり間合いを詰められ、口を布で覆われた。その途端視界が歪む。
慌てて飛びのくが、足元がふらついて上手くバランスが取れない。
「…な、にをした……っ」
「…お前は俺の…同胞を…兄弟を殺した…」
「!」
その天人の目は憎しみで溢れていた。いつの間にか首を絞められギリギリと締め付けられていた。
「…明日、お前らの式が終わったら水野家夫妻を殺す。てめェにされた様にな…」
「何、だと…!!?」
「ククククッ、そうだなァ…。先ずは耳を削ぐかァ? 俺の仲間にそうしたい奴がごまんといるぜェ?」
「………」
「全員てめェに家族が殺された奴らだ」
李野は苦しげに顔を歪めながらも自嘲する様に鼻で笑った。
「(最近よく首絞められるな…)」
「何がおかしい…!!」
それが癪に触った様で、一層力を込めた。
だが、ふっと力が抜かれたと思いきやどさりと天人が倒れてきた。その背には深々と傷が付けられている。
「――ククッ、よォ李野」
「………!! 晋助…」
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